さて、ハラルへ行こう！オーストラリア姉ちゃんが絶賛したハラルだ。

　アジスからいきなりハラルだと移動がキツイので、まずはナザレットにもう一度向かうことにした。アジスからハラル直行のバスもあるのだが（たぶんどこかで一泊する）、それだと早朝に出発しなければいけないのだ。ナザレットまでなら２，３時間だから出発は何時だってＯＫだ。

　私、なにがイヤって早起きほどイヤなものはない。なんで旅行してるのに早起きしなきゃいけないんだ。そんなだから早朝移動は大嫌いである。

　その大嫌いな早朝移動がエチオピアには多い。私はこの早朝移動を避けるため、けっこう小刻みな移動をしている。まあ、その方が色んな町を見れて良かったんだけど。

　とゆうわけで、ナザレットに行くために、まずはバス停に行きましょう。

　で、アジスアベバでちょこっと移動するときに便利なのが乗り合いワゴンだ。この乗り合いワゴンは、日本の市バスみたいに規定のコースを通るので、慣れると非常に便利な乗物だ。しかも行き先ごとに値段がはっきりしててボラれる心配も無い。ワゴンの人が大声で行き先を連呼してるので、行きたい場所を連呼してるやつに乗ればたいがいの場所へ行ける。

　で、それに乗ってバス停の近くまで行ったのだが、そこからバス停まで歩いている途中、スリに狙われちゃったんだ。

　手口は、前回のスリとまったく同じだった。芸がないぞ、エチオピアのスリ！

　まずはオッサンが握手をしてきた。例によって異常に私の体を束縛するような握手だ。甘いねー、私に同じ手は通じないよ。あんのじょう相方が私のポケットをまさぐってきた。だーかーらー、私のポケットにはジッパーが付いてるんだってばー。見て分かんないかねー。しかも今度のスリは新聞売りの兄ちゃんだった。新聞の束片手に私の太股をスリスリしてるよ。

　来るのは分かっていたが、やっぱり少々ムカっときた。パスポート盗まれた彼のコトもあるし、ここは一発ケリでも入れとくか。

　スッコーン。ケツにケリ入れられた新聞青年は、おもいっきり驚いて地べたに新聞まき散らして逃げてっちゃた。握手したオッサンはいつの間にかいなくなってしまった。しまった、あのオッサンも一発蹴っときゃよかった。

　回りにいたエチオピア人の中で一人のおばちゃんが、私に向かって親指をグッと立て、ニコッと笑ってくれた。

　さて、そんなこんなでバスに乗り、到着しましたナザレット。前と同じ宿に泊まったらニコヤカに出迎えてくれたよ。いやー嬉しいねー。

　で、翌日ハラル行きのバスに乗った。私にしては行動が早いぞ。しかし久々の長距離バスだ。かなりつらい。何がつらいって窓を開けてくれない！日差しはガンガン照りつけてるんだぞ。なんで窓開けないかねー。

　ハラルにはその日の夜到着した。宿にチェックインした頃にはだいぶ暗くなってしまったよ。まーだいぶ暗くなったけど、せっかくだから町をちょこっと散歩してみよう。

　・・・なんだこの町は？えらく雰囲気悪いぞ。道歩いてる人の目がみんな陰険だ。アジスもあまり雰囲気はよくなかったけど、ここの雰囲気悪さはアジスの５倍増しだ。なんだこの町は？エチオピアでは珍しく乞食の人もいた。しかもかなり数が多い。

　しかし、そんなのよりもっと強烈なのがいたんだ。お前ら、頭おかしいんとちゃうか？と言いたくなるような若造がいたのだ。

　道端に座っている若造が３人いたのだが、その横を通ったとき、ものすごいネチッコイ声で声をかけられてしまった。

「you〜you〜you〜」「ヘ〜イ、クレイジーマ〜ン」「ファ〜ックユ〜」

　なんだこのバカタレ共は？言葉の後も上目使いにニヤニヤ笑いを浮かべている。

「なんじゃこら、お前ら何のつもりじゃ」

　さっきまでのニヤニヤ笑いがあっとゆう間に消え、おもいっきり引きつった顔に変わった。そして一目散に逃げ出したのだ。口々に「ファックユー！」とわめきながら。

　なんじゃあいつら！？オレが近づいただけで逃げよった。なんなんやあれは？なんなんやこの町は？ひょっとして夜やからこんなに雰囲気が悪いのか？帰ろ！もう宿帰ろ！ヤッパリ夜は出歩いたらアカンわ。

　しかしなぁ、スリもそうなんだけど、チョッカイ出してくるエチオピア人は、どーしてこーも気が弱いヤツばっかりなんだろう。こっちが少しでも反撃する素振りを見せると、あっとゆう間に表情が変わって一目散に逃げて行ってしまう（その時、「ファックユー」の捨てゼリフを吐く率高し）。なんだかなぁ。

　さて、そんなコトがあった翌朝、あらためて散歩に出た。朝なら大丈夫だろう。

　で、ここの町並、メッチャいい！すんごくいい！！この町は町全体が広い城壁に囲まれているのだが、その城壁の中に細い道が入りくんでいて、しかも上下にも道があって、まるで立体迷路のようになっているのだ。歩いててたまらなく面白いのだ。町並も石造りが多くて非常に面白いのだ。散歩好きにはたまらない町並だぞ。

　しかも城壁を出ると緑の多い景色が眺められる。入り組んだ面白い町並に緑の多いのどかな景色。たまらんぐらいいい町だ。オーストラリアお姉ちゃんが絶賛したのもうなずける。

　しかし、町はすごくいいのだが、そこに住んでる人が、とてつもなく、とてつもなく・・・。

　城壁の中の入り組んだ町並を散歩していると、家々から子供達が出てくるのだ。なんせ珍しい日本人だ、見なきゃ損だってなもんだ。そして、この町は家が密集している。２，３人の子供達が出てくると、あっとゆう間に２０〜３０人の人だかりになってしまうのだ。これは大げさじゃなく本当にこれぐらいの人数が集まってしまうのだ。しかもあっとゆう間に。

　私が歩き出すと、その２０〜３０人の団体さんも後をついて来る。ゾロゾロゾロゾロとついて来る。最初は静かにしているのだが、誰かが「you you」とでも言いだしたらもう止まらない！一斉に「you you you you」の大合唱になった！！

　あなた、２０〜３０人もの人数で「you you you you you you」ってやられてみてごらんなさい、もう、たまんないぞ！その「you you you you you you you you」大合唱を聞いて遠くの方から別の団体が走って来るんだ！で、その団体と合体しての you you you you you大合唱が始まって you you you you you you you you you youちょっと、もうやめてyou you you you you you youね、静かにyou you you you you you you you you you youしようよyou you you you you you you youだからyou you you you you you you you you you you you you you you

　こ、これは逃げるしか方法は無いぞ。逃げるといっても四方八方から囲まれてる。ここは強行突破しかないよな。一番広い場所に出られそうな道を目指して全力疾走だな。少々人にぶつかるかも知れないけど、それは許してね。よしっ！逃げろーーっ！！

「ギィヤァァァアアアアアーーーー！！！」「ギョワァァーー！！」「ビヤァーー！！」

　え？え？あ、あの、あのあの。

　モーゼの十戒ってので、海が割れて道ができるのがあるよね。それの恐怖版のようだった。

　私が走りだした先にいた子供達が、一斉に恐怖の表情を浮かべ、腰を抜かさんばかりに逃げ出したのだ！

　恐怖に駆られて逃げ惑う子供達。涙流して泣き叫ぶ子供達。あわてて走って転ぶ子供達。

　ちょっと、ちょっと、コレって何？阿鼻叫喚？あ、あのねぇ、なにもそんなに怖がらなくっても、おぢさん怪獣じゃあないんだから。ねぇ、ちょっ・・・ゴン。　　ゴン。　　ゴンゴロゴン。

　い、石を投げられてしまった。

　進行方向の子供達は恐怖に駆られているが、後にいた子供達が石を投げてきたのだ。なんで？なんでなんでなんで？なんで石なんか投げるの？オレ、石投げられるようなコトしたか？私の長い人生の中で、人から石を投げられたなんて初めてだぞ。

　私が後向いて呆然としてると、さっきまで怖がって逃げてた子供達まで石を投げ出した。かなりの人数の人が石を投げ出したよ。唯一の救いは、私の足元を狙って投げてることだ。別に体にぶつけて痛めつけようとしてるんじゃあないようだけど。だけどなぁ。・・・あれ、あれ？なんか変だぞ。なんでみんな笑ってるの？

　石を投げてる人のほとんどが、みんな笑ってるのだ。しかも、心からくったくなく笑っている。

　なんで？人に石を投げつけるってのは怒りの現れだろ。それがなんで笑ってるんだ？なんで笑いながら人に石を投げられるんだ？

　逃げよう。とにかく逃げよう。

　石を投げつけられながらも、私は逃げ出した。そしたらさぁ、なんか喜々として追いかけてくるんだ、石持って。とんでもないぞこれは。

　攻撃するか。せめて攻撃するフリだけでもしなきゃ、とてもじゃないがどっかへ行ってくれそうもないぞ。

「えーかげんにさらさんかいぃぃーー！！」（あくまでもフリですよ）

　日本語で叫んで怒りの表情を見せる。今までニコニコ笑いながら石投げてた子供達が、涙目になって怯えている。怯えながら石投げるもんだから、コントロールもクソもなくなって顔とか体に当たりそうだ。なんかさっきよりヤバイんじゃないか？四方八方に人がいるからアッチ攻めりゃあコッチから石飛んでくるわキリがないぞ。二人ぐらい子供のケツひっぱたいてしまったよ。

　子供達ばかりだと思っていたら、いつの間にか若造連中も参加して石を投げていた。お前ら年なんぼじゃ！子供と違ってお前らは許さんぞ！！

　しっかしこの若造連中は逃げ足が早い！なんか怒ってるフリしてたはずが本気で怒ってるぞ、オレ。

「やめろやめろ！お前らいいかげんにしろ！あっちに行けっ！」

　じ、地元の兄ちゃんが助けに入ってくれた。怒り狂ってる日本人を見て、こりゃヤバイと思ったんだろう。でもこれは助かった。さすがに地元の兄ちゃんが間に入ってくれると、チビッコ連中も寄ってこないよ。若造連中なんか影も形も見えやしない。

　その兄ちゃんは石投げチビッコ軍団を追っ払うと、私を安全な場所（？）まで案内してくれた。

「あ、ありがとう。助かったよ。ホントに助かった」

　どーも兄ちゃんは英語が通じないみたいだったけど、気持ちは分かってくれたよね。ホントありがとう。

　その兄ちゃんは助けた礼のお金を請求することもなく、そのまま笑顔で帰っていった。

　しかしなぁ、エチオピア人は、いい人と悪い人の差がデカすぎるぞ。なんかイラン人みたいだ。イランもいい人と悪い人の差がデッカイんだよなー。なんか思い出してしまったよ。

　その後も町の中を歩いたが、同じようなコトの繰り返しだった。雰囲気の良い街並みを眺めては人が寄ってきて石を投げられては怒り狂って追い回して。なんか、ほとほと疲れてしまった。

　そんな時に城壁の外に出たのだ。そこは、すごく、すごくいい景色だった。緑が多くてノンビリして、なんかさっきまでのイザコザが癒されていくようだ。

　そんな景色を座って眺めて３分後、私は２０〜３０人の人に囲まれていた。景色なんか見えやしない。

　私はその時本当に疲れていた。この人達を追い回す気力すらなくなっていた。そのうち隙を見て逃げようとは思うのだが、タイミングがどーも・・・

「ヘ〜イ、ファックユ〜ウ」

　ブッチン。

「誰じゃオラァーー！！ワレどタマかち割るぞぉぉおおーーー！！！」

　もうアカン。ファックユーの若造だけは勘弁でけん！私は全力疾走でそいつを追いかけた。後から石が飛んでくるが知ったこっちゃない。あーーサンダルじゃ走りにくい！そいつは城壁の中に入り町中に逃げ込んだ。クッソーー！迷路みたいな町に逃げ込まれちゃあ見つけられないじゃないか！

　案の定見失ってしまった。しかし、私の怒りは収まらない。あいつがどーのとゆうより、今までのウップンが爆発したんだろう。なんか近寄ってくる連中をやたらめったら睨み付けてしまった。・・・なんか自己嫌悪だよ。

　この町は町全体が迷路みたいなもんで、いったん入るとなかなか外に出られない。当然あっちこっち歩き回ることになるのだが、その先々でまた同じような騒動になってしまった。何回か家の中にまで怒鳴り込んでしまったよ。

　もうアカン。帰ろう。このままこの町に残ってもロクなコトにならないような気がする。町自体は非常に魅力的でもっといたいのだが、このままいると精神的におかしくなってしまいそうだ。明日の朝出よう。昨日来たばっかりだけど、もうこの町を出よう。