マルサの町を逃げ出してバスでラリベラまでやって来た。出発したのが昼前ってのもあったのだが、ラリベラに到着したのは夜だった。だいぶ暗いぞ。
この町はエチオピアでも有数の大観光地だ。それもあるのだろうが、バスの到着を待っているガイドがいた。他の国ではこうゆうのは多いのだがエチオピアでは初めてだった。「おすすめのいい宿を紹介する。そして明日からの観光に私をガイドに雇ってくれ」と言ってきた。
かなり丁寧で優しそうな男だったからこの男に頼んでもよかったのだが、どうも私はこの手の自分から売り込むガイドを信用していないところがあるんだ。夜も遅いし、とりあえず宿だけ紹介してもらって後はお帰り願った。
その男は別に怒ることもなく、宿だけ紹介して帰って行った。「明日また来るから、そのときはガイドのことを考えてくれ」と言って。
う〜ん、悪い男じゃないじゃん。こいつにガイド頼んでもいいかな？って気になってくる。
この町は岩をくり抜いて作った教会がいくつもあってそれが観光の目玉なのだが、その教会の数が多くて広い敷地に散らばっていて、しかも道がややこしいから知らない人が自力で回るのはかなりむずかしい。全部回ったつもりでも、いくつか見逃してしまうことになるのだ。なので道案内のガイド志望がイッパイいる。
ただしガイドは玉石混交だ。道案内だけではなく、その教会の由来やらなんやらをちゃんと説明するヤツもいりゃあ、適当にちゃっちゃーと案内して「全部回った」とか言って金だけふんだくるヤツもいる。ガイド選びもむずかしいのだ。
ま、先は長いからゆっくりいこう。ここのいいところは、教会への入場チケットが一回買えば一ヶ月有効なのだ。なのでゆっくりできる。そーかー、別に一ヶ月かけりゃあガイドはいらないかな。
さて、部屋にもチェックインしたし、晩メシを食いに行こう。
でぇ、メシ食えるところが無い！なんか食堂がみんな閉まってるのだ！どーすんだ！オレ腹減ってるぞ！しゃーないので、コーヒーと、なんかお菓子みたいな小っちゃいパンを食った。そしたらさぁ、さっき別れたガイド志望がやってきて私の隣に座ったんだ。・・・お前なぁ、こうゆうの逆効果だってのが気がつかないかなぁ。
私はガイドを雇う気はないってのをはっきり言った。なまじ優しそうな男なので、あんまり付きまとわれると気を使ってしまうのだ。
その男は素直に承知して、「じゃあね、チャオ」とか言って爽やかに帰って行った。怒ってるような、不機嫌なそぶりは全く見せなかった。なのに！帰りがけ後ろ向きで「ファックユー！！」とか怒鳴ったのだ！
なんだあいつは！さっきまでの素直なそぶりは何だったんだ！芝居か？！しかも後ろ向きで怒鳴るってのが許せないぞ！私はその男を追いかけた。当然逃げられてしまったが、まったく、日本人なめとんな。
翌朝、私は宿を替えた。なんかあの兄ちゃんの教えてくれた宿に泊まるのはイヤだったのだ。それにシャワーも無かったからシャワー付きの宿を探したのだ。ところが、ラリベラは大観光地のはずなのにシャワー付きの宿が無い！高級ホテルに行けば当然あるのだろうが、いわゆる安宿でシャワー付きってのがなかなか見つからないのだ。
んでやっと見つけたのが町のちょっと外れにある宿だった。シャワーといっても庭の片隅につい立てを立てただけのものだった。ドアーは無い。しかも上半身は丸見えだ。男だからいいけども、女の子にこのシャワーは使えないぞ。ちなみに、トイレのドアーも下半分しか無い。しゃがんだ状態で顔が丸見えだ。しかも顔は玄関に向いている。
あのなぁ、作るときにもうちょっと考えて作ってもらいたかったぞ。
さて、ラリベラの町ですが、ガイドの勧誘がうっとおしい！日に何回も「私をガイドに雇って下さい」と誘われる。誘われるだけならまだいいのだが、ガイドを断るとほとんどのヤツが「ファックユー！」と怒鳴って去って行くのだ。しかもほぼ全員後ろ向きで去りながら怒鳴るんだ！！なんだお前ら！面と向かって「ファックユー」って言う根性すら無いのかっ！！
ったくもー！うっとおしいのでさっさと教会を見に行こう。「もう見終わったよ〜ん」とか言えばガイドも言い寄って来ないだろう。
と・こ・ろ・が、教会に行くまでの道のりがまた大変なのだ。町中から教会の入り口まではだいぶ歩かなけりゃいけないのだが、無事には歩けないのだ。まずは色んな人から声がかかる。子供もいれば大人もいる。そしてみんな声をそろえて
「チンコマンコチンコマンコ」「チンコマンコチンコマンコ」「チンコマンコチンコマンコ」「チンコマンコチンコマンコ」「チンコマンコチンコマンコ」
誰じゃ！！こんな言葉教えたのはっ！！「チンコマンコ」って言うヤツも悪いが、この言葉を教えた日本人が一番悪いっ！！ったく、空に向かってツバ吐くのと同じだぞ。
で、「チンコマンコ」攻撃が終わったと思ったら石投げ攻撃が始まる。おい！観光客を教会まで行かせないつもりか！なんで教会行くのにザコキャラ何匹も倒さなきゃいけないんだ！ＲＰＧじゃないんだぞ！教会の入り口に着いた頃にはもうクタクタだった。
クタクタになりながらも入り口で入場券を買った。一応一ヶ月有効と聞いたのだが、チケットにはそれらしき文句はいっさい無かった。
「ねーねー、このチケット、一ヶ月間有効って聞いたけど、ホントに何度も入れるの？」
「おーおー、問題ない問題ない。何回だって来てもいいぞ」
ホントかねー。でもまあ信じるコトにしましょう。
さてここラリベラの教会郡、広いしどこに何があるか全然分かんない。唯一の資料はガイドブックに載っていたもーのすごく簡単な地図だけだ。方向音痴の私にとってこの地図はほとんど役にたたなかった。まあ、とりあえず近くにあるヤツから見て行くか。
・・・すごいわここ。教会群とゆうよりも遺跡群だ。私は遺跡をだいぶ見てきたつもりだけど、その中でもこれはかーなり上位に入る遺跡だ。しかも思っていたより教会がデカイ。
あのねぇ、ここの教会はデッカイ一枚岩をくり抜いて作ってるんだ。
岩をくり抜いて作った石像とかならよくあるけど、岩くり抜いて建物作るってのはスゴイもんがあると思うぞ。
だから見る前はけっこう小さな教会なのかなと思ってたんだ。そしたらとんでもない、すんごいデッカイんだ。何階建てにもなってる教会まである。
なんかすごいよ。この建物が元は一つの岩だったなんて信じられない。大昔に作ったんだからブルドーザーとかユンボなんてあるわきゃないよな。みんな手彫りで作ったんだよな。とんでもない労力だったんだろうな。
ここはエチオピアでも最大にお勧めの場所だと思う。エチオピアに行く機会があったら絶対にここは外さないでくれ！ホントお勧めの場所だ！
しかもここの教会は観光用に保存してあるんじゃなくて今現在も信者が通っている現役の教会なんだ。私が見てる時も信者の人が何人もお祈りしてたり説法（そりゃ仏教か？）を聞いたりしていた。意味なんか全然分かんないけど、こんな場所で説法聞いてると無神論者の私でさえおごそかな気持ちになってしまうぞ。
石の教会の中で静かにお祈りをしている（これもお祈りって言うのかな？まあ、いいか）。
異教徒ではあるが、本当に穏やかな気持ちになるぞ。
そんで、私がこの教会群で一番気に入ったのが十字架教会！正式名はセントギョルギス教会と言うのだ。
ちなみに、私がエチオピアで気に入ってるビールの銘柄もセントギョルギスと言う。こ、この教会の名前から取ったのかな？なんか、バチが当たりそうな名前のビールだな。
ま、それはさておき、この教会はすごかった。他の教会は地面に立ってるんだけど（まあ、それが普通だよな）この十字架教会は地面に埋まってるんだ。
あのねぇ、説明するのが難しいんだけど。えーっとぉ、地面を歩いていると（地面は岩）前にでっかい穴があるんだ。大きな穴の中に十字架の形が見える。それが教会なんだ。十字架の天井は地面と同じ高さだ。つまり岩の地面をせっせと掘って十字架の形にくり抜いて教会にしてるんだ。
わかる？真ん中に十字架の形が残るように地面を深く深く掘ったのだ。
地面って言うか下は岩なんだよ。スコップなんかじゃ掘れないぞ。ものすごい労力だ。
とゆうことで穴の淵から下をのぞいて見た。
けっこう深いよ。掘りきった一番下に教会の入り口がある。
よくもまあこんなに掘り返したもんだよ。しかも十字架の形に削って。もちろん削っただけじゃない。ちゃんと中にも入れるのだ。これは建物なのだ。スゴイのだ。
そして穴の縁にある階段を降りていくと十字架教会の入り口にたどり着く。すごいぞぉーけっこうな深さだ。教会は地上三，四階建てぐらいの高さがある。よくもまあこんだけ掘り下げたもんだ。
私がこの教会を見学した時、たまたま日本の団体さんが見学に来てたのだ。ラッキーなことに日本語での解説をタダで聞けた。やっぱり解説が有ると無しじゃあ全然違うな。
width="500" height="336"ツアーのいい所だねー。いつもは見せてくれない特別な十字架を奥から出してきてくれた。
彼が両手に持っているヤツがその十字架なのだが、話を聞かないと十字架だとは分からなかっただろうな。
この団体さんは明日の朝には飛行機に乗ってどっか別の場所へ行くとゆう。そして、十字架教会のすぐ近くまでバスが迎えに来てホテルへ帰って行った。「チンコマンコ」攻撃や石投げ攻撃に合うこともなく、平和な状態で帰って行った。
・・・正直うらやましかった。私は団体行動が苦手なのでツアー旅行はあんまり好きじゃないが、ここエチオピアに限ってはツアー旅行の方がいいと思う。「ファックユー」や石投げ攻撃を受けそうな場所はバスで通り抜け、エチオピアのいい所だけ見て帰れるんだ。
それに近くに添乗員やエチオピア人のガイドがいればチョッカイを出してくるエチオピア人もいないだろう。だいたい大勢で行動している団体に向かってチョッカイ出せるような根性のあるエチオピア人はいない（断言してもいいぞ）。
彼らは日本に帰ったら、なんのためらいもなく言うだろう「エチオピアは最高だったよー」と。正直うらやましい。
そして、私は最高の教会群を見た後、「チンコマンコチンコマンコ」の合唱団を通り抜けて宿に帰った。ホント疲れるぞ。
そして宿に帰ると、いつもの悪ガキが待ち構えていた。この宿にもいるのだ、私の帰りを待ち構えて毎回毎回チョッカイ出す悪ガキが。
私はそのガキを完全に無視し、余裕シャクシャクで部屋に入って行く。なんてマネはできようはずもなく、毎回毎回全速力で追い掛けまわすんだ。そのガキも素直に逃げりゃあいいものを、「オレはお前とケンカしたいんだ！！かかってこいーー！！」とか憎まれ口をたたく。ホンマにドツいたろかいな。
しかし、我慢の限度を超えることがあった。
私が宿のトイレでウンコしてたときだ。最初にも書いたが、ここのトイレはウンコでしゃがむと顔が玄関の方を向く。つまり玄関からは丸見えなのだ。そして、例の悪ガキが玄関にいた。
私がウンコしてる最初から最後まで、玄関に座ってニヤニヤヘラヘラニタニタ笑って見ていやがったのだ。
ウンコは途中で止められない。ウンコの間ずっと私は血管が切れそうだった。ケツを拭くのもそこそこに、私はトイレから飛び出した！ガキは血相かえて逃げ出すが、やっぱりいつものセリフだ。「オレはお前とケンカしたいんだ！！かかってこいーー！！」
おうおう、やってやるよ。今日は遠慮なんかしない。マジでぶっとばしてやる。途中でサンダルが脱げてしまって足が痛いがかまうもんか。今日は絶対につかまえてやる！
そしたらそのガキ、道の途中でガケに走り下りてしまったのだ！こ、これじゃあ追い掛けれない。靴履いてたとしても下りるのに躊躇してしまうようなガケだ。ガキはガケの下でいつものセリフをくり返している。
わ、私は、私はそのときガキに向かって石を投げてしまった！・・・なんてこった、あいつらと同じ所まで落ちてしまった。石投げるなんて最低の人間のすることだぞ。
ここの教会は確かに素晴らしい。本当だったら何日も通って隅々まで見てみたい。しかし、私は結局教会へは二回しか行かなかった。行く気力が失せてしまっていたのだ。教会の行帰りに「チンコマンコ」通りを歩かなきゃいけないってのもあったのだが、なんか、エチオピアに疲れきってしまったのだ。正直に言うと、私はそのとき完全に負け犬モードになっていた。もうイヤだ、早くエチオピアから逃げ出したい。そう思っていたのだ。
そして、逃げ出すことにした。本当はあと一ヶ所行きたい町があったのだが、その町をあきらめて国境まで最短ルートを進むことにしたのだ。
ちにみに、私が行きたかった町とゆうのはアクスムとゆう町だ。ここラリベラからバスで、最短でも二日かかる。道がかなりの悪路なので条件が悪いと三日も四日もかかるらしい。雨期にエチオピアを旅行した人は、片道一週間もかかったそうだ。
しかし、アクスムまで行く道の景色がとてつもなく素晴らしいそうだ。景色のいいエチオピアの中でも飛び抜けて素晴らしい景色らしい。三日も四日も苦労して移動するだけの価値は十分にあるそうだ。
で、アクスムにも見所はイッパイあるのだが、その中に、非常に魅力的な（個人的にすんごく魅力的な）教会があった。
モーゼの十戒てのがあるよね、あれやっちゃダメこれやっちゃダメってやつ。その十戒が書かれた石が納められてる教会があるのだ。そう、アクスムには失われたアークがあるのだ！なんだよぉ、こんな所にあるんならハリソンフォードも苦労しなくてよかったのに。
ひどくマユツバな話しなのだが、エチオピア人は信じているそうだ（とゆう話しだ）。肝心のアークは観光客なんぞには絶対に見られないそうなのだが、その教会自体には入れるそうなのだ。・・・行ってみたかった。
今思うと、エチオピア最高の景色もアークの教会もすんごく見たいのだが、その時の私には、そんな余裕はみじんも無かった。
宿のおじさんに、次の町に行くバスの出発時間（また早朝だ）とバス停の場所を聞いて出発の準備を始めた。
「もう行くのかね？君にとってはつらかったのかもしれないが、もう少しいればこの町の良さも分かると思うよ。それに、教会も全部見ていないだろう」
宿のおじさんが私に気を使ってくれた。このおじさん、いい人なんだわ。私があっちコッチでイヤな目にあってるのも知っていて（私がしゃべったんだけどさ）色々気を使ってくれていたのだ。せっかく来たのだからこの町を好きになってほしいと言っていた。
ありがとう。おじさんの気持ちはありがたいけど、私、もうダメなんよ。にっちもさっちもいかないのよ。なんか、役満に連続で振り込んでるようなもんなんよ。マージャンならとっくにハコってるぞ。
そして、ハコテンの私はラリベラを後にした。
