相変わらずのカゼひきではあるが、それでもだいぶ調子が良くなってきた。そろそろ次の準備をしよう。

　次はエチオピアへ行くのだ。最近はずっと国境でビザをもらってたが、エチオピアは国境ではビザがもらえないのだ。なので、ナイロビのエチオピア大使館でビザもらっとかなきゃいけない。とゆうことで、エチオピア大使館へと向かった。

　そこそこ遠いエチオピア大使館へと歩いてる途中、変なおっさんが声をかけてきたのだ。なんか、やたらと身体的特徴のあるヤツだ。ヒョロヒョロしててすごく背が高い。おまけに手足もやたらと細長いんだ。なんかカマキリの改造人間みたいなヤツだぞ。

「おーー君、いいところで会った。私だ私、ほれ、君の泊まってる宿でガードマンやってる私だよ。分かるよね？」

　え？ウチの宿にこんなガードマンいたっけ？黒人の顔って違いがよく分からないんだよな。ひょっとしてプラネットの方の人かな？でもなぁ、こんなカマキリみたいな人だったら一度見たら忘れないと思うんだけどなぁ。

「ちょうど今車がガス欠になっちゃったんだよ。ガソリン入れようにも手持ちの金がちょっと無くてね、すまないが少しだけ金貸してくれないか？宿に戻ったら絶対返すから」

　あーーなぁんだ詐欺の人か。

「ごめんねぇ、今急いでるんだ。それにあんまり金持ってないし」

「なんだよぉ！いつもお前を守ってやってるじゃないか！ちょっとだけなんだよ、絶対返すから！」

「いやごめん。ホント急いでるんだ。早く宿に帰らなくちゃ」と、進行方向を指さす。宿とは正反対の方向だ。

「大丈夫だよ、ガソリン入ったらオレが宿まで送ってやるよ。だから貸してくれよ」

　おーー、やっぱり詐欺の人だ。少しだけ、ひょっとしたら本当に宿のガードマンかな？って思ってたけど、違った違った。

「ごめん、本当に金無いんだ。ごめん、急いでるから」

「何だよ！少しぐらい貸してくれてもいいじゃないか！いつもオレが宿を守ってるだろ、よく知ってるだろ」

　だから知らないって。その後も怪人カマキリ男はなんやかやつきまとってきたが、最終的にはあきらめて帰っていった。

「日本人がこんなに冷たいとは思わなかった。なんてこった、オレの車はもう動かない」

　ご苦労なこって、最後までちゃんと演技をしていた。

　わたくし、強盗とかの暴力を使って金をせしめる輩は大っ嫌いである。だけど、この手の頭を使って金をだまし取ろうとする連中はそんなに嫌いではない。本当に色んな方法を考えてくるんだから、時々感心するコトすらある。それに、たとえだまされたとしても、それ以降は同じような手にはだまされなくなる。なんか詐欺の人に出会うたびに、私のレベルがアップするような気がしてくるもんな。

　今回のカマキリ男もなかなか目のつけ所がいい。どーも日本人は黒人の顔の判別がつきにくいのだ（私が特にそーなのかもしれないが）。そのへんをうま〜く利用している。しかし、いかんせん本人に身体的特徴がありすぎるのだ。う〜ん、おしい。実におしい。

　てなことを考えながらエチオピア大使館に到着した。さっそくビザの申請だ。

　そして、私は大使館の窓口の人を見てビックリした！メッチャクチャ美人だ！！何だあの美形の女性は！

　けっこう長いアフリカ旅行で、私はいまだかつて美人に出会ったことがない（マダガスカルはちょっと例外だが）。しかし、窓口に座ってる女性は掛け値なしの美人なのだ！ひょっとしてエチオピアはこの手の美人がわんさかいるのだろうか？期待に胸がふくれるぞぉ！

　その美人に申請書を提出しようとしたら「あなたは外人でしょう。外人の窓口は隣よ」と言われてしまった。隣の係員はむさいおっさんだ。なんだよ、このお姉ちゃんは相手してくれないのか。う〜む、少し残念だ。

　私は手続きをすませて急いで宿に帰り、チャリダーＦにエチオピア大使館美人姉ちゃんのことを報告した。

「もう、メッチャクチャ美人やでぇ。あの人の顔を見るためだけでもエチオピア大使館に行った方がえーでぇ。あんたもエチオピア行くんやろ、はよビザ申請した方がえーでぇ」

「本当？！だってアフリカ、どっこの国にも美人いなかったじゃない。ホントーにホント美人なの？」

「ホンマ美人！掛け値無しやから。これはエチオピア期待できるでぇー」

　そんな話しで盛り上がった後、チャリダーが変な詐欺師の話しを始めた。町を歩いてたら変なオッサンに声をかけられたらしい。宿のガードマンだとか言ってガソリン代をせびろうとして、・・・あれ？どっかで聞いたような話しだけど。

　ありゃま、例のカマキリ男と同一人物だよ。チャリダーＦもあいつに声かけられたんだ。なんかよくよく聞くともう一人いる別の日本人も同じヤツに声かけられたらしい。

　今この宿には日本人が四人いるんだが、そのウチの三人が狙われたんだ。スゴイ確率だね。さすがに金出した人は誰もいないけど、あのカマキリ男、日本人と見りゃあ片っ端から声かけてんじゃないのか？それだけ日本人がカモりやすいのだろうか？なんかヤダねー。だいたい日本人は他の欧米人とかと比べて体が小ちゃい。だからナメられるんだろうな。詐欺ならまだいいけどさぁ、暴力的にこられたら日本人は黒人に勝てるわけないもんな。

　チャリダーＦもその手の暴力屋さんにはイヤな思いをしているらしい。そうだろうなー、自転車旅行ってのはそーゆー意味でもリスクが多いんだろうな。

「なんかなぁ、いっつも思うんや、私にプロレスラー並みのガタイがあったらなーって。絶対強盗は近寄ってけぇへんもんなぁ。それどころかコッチからやっつけに行ったんで」

「ホントホント。オレも漫画みたいな超能力が欲しいよ。目から光線ビーって出してやっつけたいねぇ」

「ホンマやねぇ、カメハメ波が出せるもんなら出したいわ」

　いやぁ、考えることはみんな一緒だねー。体の小さい日本人、ホントに苦労するよ。

　ほんで、その苦労者どうしの私とチャリダーＦで、夜のカジノへ行くことになった。私がそろそろエチオピアへ出発することになったので、せっかくだからその前に一緒にカジノへ行こう、となったのだ。チャリダーＦはけっこう何回も行ってるらしい。

　私達がカジノへ行った日はチャイナフェスティバルの日だった。その日は中国の何かの記念日らしくて、中華料理が食い放題なのだ！普段もカジノでは晩メシ食い放題なのだが、普段どんな料理が出てるのかは知らないが、中華料理にはかなわない！その日は昼メシ少な目にしてカジノへと繰り出した。

　いや、初めてカジノとゆうのに入ったけど、ちょっと気後れするね。そこそこ立派な作りだよ。私らみたいな小汚いかっこうで入っていいのだろうか？

　なんかお上りさんっぽくキョロキョロしちゃったよ。ルーレットをやってる（あれは適当に張ればいいんだろうな）。カードゲームをやってる（ありゃルール知らないから無理だな）。スロットマシンがある（あれが無難かな）。コンピュータ相手のポーカーがある（あれもできるな）。

　と、ゆうことで、初心者の私は機械相手のゲームから始めた。で、あぁっとゆう間に負けた。すこうし勝ったかなぁ〜って思ったらすぐ負けた。機械相手に負けちったよ。チャリダーＦが言うには、なんか機械の設定が普段よりキツくなってるらしい。普段はこんなに負けることはないんだって。お祭りなんだから設定アマメにすりゃあいいのに、逆にきつくしてるんだ。

　機械はダメだ！ヤッパ人間相手じゃなきゃ。人間相手はカードとルーレットしかないんだよな。んでカードは全然ルールが分からない。以前ギャンブラーＨが「計算方法さえ覚えれば絶対に勝てる！」と豪語したカードゲームだ。くそぉー、ちゃんと聞いときゃよかったよ。

　なので、ルーレットへ行こう！とりあえず適当な番号にチップ置きゃあいいんだよな。んで、適当に置きました。んで、ずぅえ〜んぶハズレました。

　なんかさぁ、後で他の人に聞いたんだけどさぁ、ルーレットで最初っから単発の番号に賭けるバカはいないんだってね。最初は黒とか赤とかに賭けて、ほんでだんだん番号の方にバラけて賭けるんだってね。ほんで番号の出方の傾向とか係りの姉ちゃんの投げ方とか研究するとかなんとか言ってた。

「最初っから適当な番号に置いて当たるわきゃないでしょ！」とか言われてしまったよ。

　私、実はギャンブルってあんまり興味がないんだ。パチンコや競馬もほんのちょっとしかやったことがない。なんか、そんなに面白いとは思えないのだ。のめり込めないのだ。私が唯一やるギャンブルはマージャンだけだ。マージャンは大好きなのだ！ヘタなんだけど、あんなに面白いゲームはないと思うぞ。中国祭りなんだから雀卓でも置いてりゃいいのに、そんなものはなかった。

　ちなみに、チャリダーＦもそこそこ負けてしまったらしい。しかたない！食おう！中華料理食おう！二人して負けた分以上食おう！負けた分以上食ったらハラ破裂するけどそれでも食おう！

　いやウマイ！中華料理ウマイ！久々の中華料理だよ。ろくな地元料理のないナイロビで久々にうまい料理だ。中華料理のくせになぜか巻き寿司まであるけどこれもウマイ！食いすぎちゃあ一休みしてまた食っちゃあしてしまった。なんか身動きとれないぞ。

　カジノのテーブルはなんか中国人で溢れ返っている。どこにこんだけの中国人がいたんだろう？ってかんじでワンサカいるよ。ドコにいたって中国人は中国人だ。声がデッカイや。

　イスに座ってボーっとしてたら、なぜか、じゃあ、ディスコでも行きますか。ってことになってしまった。カジノの隣がディスコなのだ。カジノの負けをディスコでウサ晴らししますか。ってとこだな。

　ナイロビのディスコは、なかば売春お姉さんの巣になっている。入ったとたんワンサカ寄ってくるらしい。なかば期待して入ったら、まぁ寄ってくるわ寄ってくるわ・・・チャリダーＦに！

　なんでやねん！？なんでワシには寄ってこんでチャリダーばっかりがモテるんや！？なんか納得でけへんぞ。見てくれは、まあ、どっこいどっこいや。ほんでも私の方がまだましやと思うぞ。チャリダーなんか髪の毛ボサボサやで。髭ボーボーやで。なんか扇町公園の青テントに混じっててもなんの違和感もないような見てくれやで。それがなんで一人だけモテモテやねん！？なんかウサ晴らすどころか余計にウップンたまったわ。

　ニコニコ顔のチャリダーＦに「もう帰ろうなー」と言ったのはゆうまでもない。一人だけえぇ目ぇさせてたまるかい。

　夜中タクシーに乗って（ちょっと緊張した）宿に戻りましたよ。すぐに寝ましたがな。

　それから数日後、私はナイロビを離れることになった。カゼもだいぶ良くなったし、エチオピアに向けて出発だ。まずは赤道の街、ナニュキへ移動だ。

　ナニュキ行きのバスは、ちょこっと危なそうな場所にあるのだ。宿を出たのは昼前だけど、大荷物かついで一人でそこへ行くのはちょっと緊張する。だけど、チャリダーＦがバス停まで一緒に来てくれたのだ。見送ってくれたのだ。これは心強かった。

　この人はねぇ、ニューケニアの宿に長いこといるけどねぇ、出発する人をいつも見送ってあげてるみたいなのだ。なんかさぁ、髭ボーボーなのに優しいのだ。ディスコで一人モテモテだったことも許してあげる。

　ありがとうね。色々お世話になりました。チャリダーＦとはホント縁があったよなー。いくらなんでも、もうアフリカで再会することはないだろう。次に会うとしたらバンコクのカオサンあたりかな？ひょっとしたら日本かもしれない。

　それでは！チャリダーＦも気をつけて。良い旅を！！