さて、いよいよエチオピアに向けて移動だ。まずはエチオピアへの玄関口、イシオロに行こう。

　エチオピアへ行くには、イシオロでトラックをつかまえなきゃいけない。イシオロからエチオピアへは公共の交通手段がないのだ。なので、商売でエチオピアへ行くトラックと交渉し、乗せてってもらうしか方法はがない。

　普通だったら、いつ来るか分からないエチオピアへ向かうトラックを待って交渉しなきゃいけないのだが、幸か不幸か（どっちかってゆうと不幸の方なのだが）、イシオロ〜エチオピア間の道では武装強盗さんが頻発するのだ。なので、エチオピアへ向かうトラックはお互いに連絡を取り合い、団体で移動する。ナミビアでのコンボイ移動と同じ様なもんだな。

　なので、トラックの集まる日はだいたい分かるし、台数も多いから交渉も楽なのだ。これで武装強盗さえ出なかったらゆうコトないんだけどな。

　とゆうことで、まずはそのエチオピア行きのトラックが集まるイシオロへ移動だ。イシオロまで行くのは普通のバスだったか乗り合いだったか忘れちゃったけど、まあ特に問題はなかった。

　そして、その移動中の景色がメッチャクチャきれいだった。アフリカの移動はキツイ移動が多いんだけど、どこも景色がいいんだ。全然飽きないぞ。そうだ、チャリダーＦはこの景色を存分に見ることが出来るんだろうな。寄り道なんかも平気で出来て好きなところに行けるんだろうな。うらやましいぞ！だけど、私にはアフリカを自転車で旅行する根性はない。その人のレベルに合った景色しか見れないってことなのかな。

　イシオロに入る手前で、ケニア最高峰のケニア山が見れるはずだった。本当だったら最高の景色の最後にそびえ立つケニア山が見れるのだ。しかし、当然、ケニア山は雲に隠れて見れなかった。いいんだもん。どーせ私は雨男なんだもん。雨に降られなかっただけ良かったんだもん。いつものコトなんだもん。

　そして到着したイシオロの町は、ナニュキに輪をかけてノンビリした町だった。そして暑い！ナニュキはそんなに暑くなかったのに、たった数時間の移動で気温がこんなにも変わるんだ。ケニアに入ってからこっち、久しぶりに暑い町だ。それでも天気が良くてカラっとしてるから暑くてもそんなに苦にならないぞ。そしてこの町、すごく空気が澄んでいる。景色がいつもクッキリ見えるのだ。散歩してても気持ちいいぞ。なんか目が良くなったみたいだ。

　しかぁし！この町、少数ではあるが、ごく少数ではあるが、悪ガキがいる。

　私が歩いていると、いきなり後ろに近寄ってきて「ファックユー！」とか言って逃げ去っていくのだ。なんだなんだなんだ、何だいきなり？！私、長い人生で「ファックユー」なんて言われたの初めてだぞ。逃げたのは小学生ぐらいの子供だったけど、意味分かってんのか？

　その後も子供達は（どうやら同一グループだ）、ささーっと近づいてはチョッカイ出してささーっと逃げるってゆうのを繰り返している。素晴らしいフットワークだ。ヒット＆ウエイってやつだね。

　なんか、唐突ではあるが、子供の頃近所の意地悪オヤジの家の前に、犬のウンコまき散らして走って逃げたコトを思い出してしまった。

　しかし、アフリカ旅行でこの手の悪ガキに会ったのは初めてだ。これも、エチオピアに近づいた証拠なのだろうか？

　実はエチオピア、旅行者の評判がすこぶる悪いのだ。エチオピアに行った旅行者に何人か会ったが、ほとんどの人がエチオピアをボロクソに言っていた。

　やれ人が最悪だ食い物が最低だバスが息苦しいあんな国ヤダ。などなどなど、エチオピアをほめる人はほとんどいなかった。

　心配だよー。さっきの悪ガキみたいのがイッパイいるのだろうか？

　さて、そんな心配をしている時、ウチの宿に一人の女の子がチェックインしてきた。オーストラリアの女の子で、エチオピアから入ってきたのだ。そして、その女の子はメッチャクチャ、それはもうメッチャクチャ美人だった！！

　そして、どこでなにがどーなったか頭がしっちゃからって良く覚えてないのだが、その子と二人でお酒を飲みに行くことになったのだ！！！

　もう、私舞い上がってしまったよ。なんたってこの私が美人と肩並べて道を歩いてるんだ。二人だけで歩いてるんだ。なんかシヤワセを感じちゃったねー。

　飲み屋といってもしょせんイシオロだから、メシ屋に毛の生えたよーなトコしかなかったんだけど、彼女はそんなコト全然気にせず（人間ができてるねー）嬉しそうに笑ってくれた。「あん、すごく感じのいい店じゃない。私、気に入っちゃったわ」とかなんとか言っちゃってくれちゃったりなんかしちゃったりなんだ。私はいよいよ舞い上がってしまったよ。

　そして、話しがはずむはずむ。私ははっきり言って英語は下手くそなのだ。カトコトと身振り手振りでなんとかごまかしてるナンチャッテ英会話なのだ。そんな私がこうもスムーズに会話ができるのは、彼女が私に合わせて単純な単語を使って分かりやすく喋ってくれてるおかげなのだ。

　なぁんて気配りのできた女性なんでしょう。よく中途半端に英語話せるヤツが、やたらむずかしい単語を使って早口で「オレってこぉんなに英語が話せるんだぜぇ」と鼻の穴膨らませてるが（イランの中途半端インテリに多いんだ、こーゆーのが）、ホントーに英語話せる人は、彼女みたいにちゃぁんと相手のレベルに合わせて喋ってくれるんだ。おぢさん助かっちゃうよ。

　で、話しがはずみ、当然のように今までいた国の情報交換になった。

　彼女はエチオピアから来たからエチオピアの情報を、私はケニアの情報をそれぞれ教え合ったのだ。私の方からはあんまり有益な情報が無かったんだけれど、彼女からはさまざまな有益情報を教えてもらった。何と彼女、エチオピアを絶賛したのだ！

「あんな素晴らしい国はないわ。もう見所イッパイだし、それに人が最高に親切で友好的なのよ。あたしの一番のお気に入りの国になっちゃったわ。エチオピアには絶対もう一度行くわね」

「だ、だけどさぁ、他の旅行者はエチオピアをボロクソに言ってるよ。あんな国は最低だ、とか言ってるよ」

「そう。あたしもそうゆう話しは聞いたわ。エチオピアにいる時もそうゆう人に会ったわ。でもね、そうゆう人はたいがい短い間しかエチオピアにいないのよ。だいたい１週間か２週間だわ。もっと長いこと滞在すれば絶対にエチオピアの良さが分かるはずなのよ。あたしなんかビザ延長しちゃって３ヶ月もいたのよ」

　そーなんだー。いやーここまでエチオピアを絶賛する人には初めて会ったな。確かにエチオピアをボロクソに言った人達は、かなり早い日数でエチオピアを抜けてたみたいだったものな。長期間滞在すれば良さが見えてくるのだろうか？

「ねーねーねー、それじゃあ、あなたがエチオピアで一番気に入った町はなんてゆう町？」

「ん、まあ！それは難しい質問だわ！だって、どれもこれも最高だったんだもの。あん、難しいわ。ん〜ん、どうしようかしら、ちょっと待ってね」

　お姉ちゃん、わざわざ地図出してくれて検討しちゃったよ。

「そうね、ハラルだわね。ここは素晴らしかったわ！町並がすごい素敵なのよ。ココにはゼヒ行ってね。そうそう、ラリベラ！ここも外せないわ！素敵な遺跡がイッパイあるのよ！」

「あ、私、遺跡大好き！それはゼヒ行ってみよう！」

「うん、ゼヒ行ってちょうだい、すっごくおすすめだから。あぁそうだわ、アクスム。ココも素敵なのよ。ここも素敵な遺跡よ。移動はちょっと大変だけど、それだけの価値がある場所だわ。そうだ、あそこもゼヒ行って。あん、ここも素敵だったのよ。それからあそこ・・・」

　あなた、それほとんど全部じゃない。このお姉ちゃん、よっぽどエチオピアが気に入ったんだな。しかし、そんなお姉ちゃんが意外なことを言った。

「あ、大事なことを忘れてたわ。シャシャマネ。ここには行かないで。あたしエチオピアの町は全部大好きなんだけど、シャシャマネだけはダメだわ。あそこはひどい町よ。シャシャマネだけには行かないでね」

　なんと、こんなエチオピア大絶賛のお姉ちゃんでも嫌いな町があったんだ。

「そのシャシャマネってどんな町なの？何があったの？」

「・・・ごめんなさい。それはあんまり言いたくないのよ。あまり思い出したくないわ。だけど、絶対行かないでね。この町は移動の起点になっているような町なんだけど、乗り換えだけで泊まらない方がいいわ」

　・・・いやー、なんか大変なコトがあったのかな？これ以上は聞かない方がいいのかな？

「そう、それからエチオピアの食事、すっごくおいしいわよ。あそこの食事はパーフェクトね！」

　なんと、エチオピアのメシがウマイと言うのか？！だって、エチオピアをそんなに悪く言わなかった人でさえ、エチオピアの料理だけはけなしてたのだ。それをおいしいって言うのか？

「だ、だけどさぁ、エチオピア料理はマズイって評判だよ。特にインジャラ（エチオピアの主食）、あれだけは食べれないって人は多いよ」

「うん、あたしも最初はダメだったの。でもね、何回も食べてるうちにおいしくなってくるのよ。そうなったら、もうインジャラやめられないわよ（ニコニコ）。それにね、あたし、ベジタリアンなのよ。アフリカの食べ物って、ベジタリアンには選べる種類がほとんど無いのよ。でもね、エチオピアは別だったわ。もう毎日楽しんで料理が選べたもの、ホントあそこの料理はパーフェクトだわ！」

　そーかー、なるほど、確かにアフリカ料理は肉料理が多い。とゆうかそればっかりだ。私も野菜が食べれなくて困ってたのだ。そーかー、エチオピアには野菜料理が豊富なのかな？ちょっと期待してみようかな？

　それでねぇ、なんかねぇ、こーゆー話しをずっとしてたらさぁ、なんかさぁ、私、シヤワセな気分になっちゃったのよ。なんで彼女と向かう方向が逆なのかなぁ。こんな女性と一ヶ月ぐらい旅行したら、私はシヤワセの絶好調になってしまうんじゃないだろうか。

　よし！明日は彼女にイシオロの町を案内してあげよう！私もあんまり詳しくはないけど、そこはそれ知ったかぶりしてりゃあいいや。

　ところが、何と彼女は明日の早朝にはもうナイロビに移動してしまうのだ。ナニュキにすら寄らなくてナイロビ直行らしい。それはもったいない！なんとしても彼女ともう少し行動を共にしたいじゃないか！！私はありったけの嘘八百を並べてこのイシオロがどんなに素晴らしいか、たった一晩でこの地を離れるのがどんだけ愚かなことかまくし立ててしまった。

「う〜ん、残念だわ。あたし、ナイロビまで通しでお金払っちゃったのよ。明日のトラックで行かなきゃダメなのよ」

　・・・そーなのかー。・・・そーかー、しかたないよなー。お金捨てるわけにゃいかないよなー。残念だよなー。私、エチオピアに行くのやめてナイロビに戻ろうかと、ちょっとだけ考えてしまったよ。

「それじゃあ、あたし明日早いから、そろそろベッドに行くわ」

（私も一緒にベッドへ・・・）とゆう言葉はモチロン飲み込んで、浮かれた気分と落胆した気分とごちゃ混ぜになったまま宿に帰った。

　私、その晩はなんかモンモンとしてあんまり眠れなかったよ。朝（昼前）起きてみたら、彼女の部屋は扉全開でおばちゃんが掃除していた。

　・・・エチオピアでも行くか。

　その日、エチオピア行きのトラックについて町の人に聞いてみた。そしたら明後日の朝、トラックが出発するらしい。ちょうどいいや。もう移動しちゃえーー。

　移動の日、まだ暗いうちにトラックの集合場所に行くと、いるいる。なんか２０台以上のトラックが集まってるよ。トラックの荷台は牛じゃなくて普通の荷物だった。どうやらエチオピアからケニアに行くトラックは牛を運ぶんだけど、逆の方向は普通の荷物らしい。だけどなぁ、やっぱり荷台より車内の方がいいな。

　車内の相場はどうも１，０００シリングみたいだ。台数が多いから交渉は楽だと思ったんだけど、車内は先客がかなりいてほとんど満員だった。やっとこさ車内に入れるトラック見つけて交渉成立。さあ、出発だ。

　イシオロから国境までは２日かかった。途中マルサビットとゆう町で一泊し（ゲストハウス泊）、翌早朝改めて再出発だ。二日連続早朝起きでメチャクチャ眠たいぞ。国境の町にはその日の３時ぐらいに到着した。

　イシオロ〜国境間は悪路だとゆう噂だったけど、それほどヒドイ道ではなかった。アフリカの超悪路移動に慣れた身には、なんの苦労もなかったのだ。ま、車内で寝てたってのもあったんだろうけど。幸いなことに武装強盗さんも出勤しなかったしね。

　ケニア側のイミグレに行く前に、メシ食ったりタバコ買い漁ったりしてケニア通貨はほとんど使い果たした。オーストラリア美人姉ちゃん（あーーもう一度会いたいぞ）の話しでは、エチオピアの国境の町には銀行があって、両替には何の問題も無いってことだった。Ｔ／Ｃだって使えるそうだ。通貨の調整が不要ってのはありがたいね。

　そして、ケニア側のイミグレで出国手続き完了。なんの問題も無いぞ。そして、この道をそのまま行けば、いよいよエチオピアだ！！

　我が旅行経験の中で最強の国エチオピアだ！！そっこらじゅうにいるクソガキとそっこらじゅうにいるクソ若造とそっこらじゅうにいる心優しき人々とウジャウジャいる売春婦と山ほど落ちてるコンドームとやたらめったら多い見所とアフリカ最高の景色とマズイんだかウマイんだか分からない料理の待ちかまえているエチオピアだっ！！！

エチオピア編に行きます