宿を移っても、しばらく私はノンビリしていた。移動するのはもうちょっと後でもいいや。あんまりセカセカ動くと又疲れてしまうもの。
長旅をする秘訣は、動く時はしっかり動く。休む時はしっかりウダウダする。そーゆーメリハリだと思うんだ。だから自信をもってウダウダしよう。
さて、話しはちょっと前後するんだけど、ウイントフックでウダウダしてた時、電気屋さんのテレビの前で人だかりがしていた。なんだろう？テレビ画面を覗き込んでびっくりした。ＣＮＮだと思うんだけど、ビルが崩れてボロボロになっている映像が映っていた。
なんだこりゃ？地震か？どこの国だろう？日本じゃないことは確かだ。ちょっと聞いてみよう。えーっと、地震って英語でなんて言うんだろう？『グランドバイブレーション』？違うよな。
「あのー、あれは何ですか？事故？どこの町なんですか？」
「事故じゃない、テロだ。アメリカでテロがあったんだ」
「テ、テロぉ？じゃあ何、あれは爆弾？」
「爆弾じゃない、飛行機で突っ込んだんだ」
「飛行機が突っ込んだぁ？それは、あれ、テロじゃなくて操縦ミスとかの事故じゃないの？」
「違うよ、二機も続けて突っ込んだんだ」
なんだそりゃぁ？！しばらく見ていると、ジェット機が突っ込んでくる映像が映った。おっどろいたよ。いったいなにがあったんだろう。
宿にもＣＮＮが見れるテレビがあったけど、その日から連日そのニュースばっかりだった。はっきり言ってあんな早口な英語なんか分かるわけない。何がどーなってんだかサッパリ分からないぞ。
そんな時に役立つのがインターネットだ。日本語でニュースがちゃんと見れる。ウイントフックには日本語が読めるインターネットカフェがあったので、その後も色々と情報が集められた。
そして、それにもまして役立つのがメールだった。
友達からも「今どこにいるんだ？アメリカのテロは知ってるのか？」とかメールが来た。それに、旅先で知り合った人からもメールが来る。その国でのテロの影響やら治安情報やらを、どんなニュースよりも早く知ることができるのだ。完全にリアルタイムだよ。
いやすごい時代になったもんだ。ここ最近の発明で（発明とゆうのかな？）一番スゴイのがメールだと思う。
メールなんてゆうのは、私らみたいにドコほっつき歩いてるのか分からん旅行者には最適なツールだよ。
ただ、やって来る情報が世界情勢を嘆くとか問題提議とかは二の次で、やれＵＳ＄のレートが下がりそうだとか、どこそこの国境が閉じてしまって今通れないとか、治安が急激に悪化してあの国には入るなとか、そーゆー情報ばっかりだけどさ。でも、そーゆー情報が一番有り難い。
それにしても、なにも私が旅行中にテロをおこすことないよな。アフリカの後アジアを旅行するつもりなのに、色んな所の国境が閉じてしまって通れないじゃないか。この旅行はちゃんと続けられるのだろうか？
さて、そんなことをウダウダ考えてる時、宿のおっちゃんがこそっと耳打ちしてきた。
「アルーシャ公園のツアーだけどさ、半額でいいから参加してくれないか？」
ん？半額？どーゆーことだ？
この宿では、砂漠ツアーの他にアルーシャ国立公園とゆう所で動物を見るサファリツアーもやっているのだ。そして、今人数が足らないらしい。人数が足らなくてツアーを中止するより、半額でもいいから人が集まった方がいいのだ。
こ、これはチャンスだ。私はサファリツアーはケニアでやろうと思ってたのだが、半額となれば話しは別だ。ゼヒ参加させてもらおう。
予定は来週の水曜日だ。でも私もう一度スワコップムンドに行くんだよな。行ってすぐ戻って来るのか？なんかせわしないぞ。
おっちゃんと相談して、スワコップからの帰りはツアーの車に便乗させてもらうことにした。
ツアーメンバーは、最初砂漠ツアーに行って、その後アルーシャツアーに行くらしい。砂漠ツアーにしか行かない人がいるからアルーシャツアーの人数が足らなくなってしまったのだ。砂漠ツアーの最後はスワコップに行くから、その時私が合流すればいい。
今日は木曜日、明日移動すれば金曜日の夜はスワコップに泊れる。ちょうどいいね。金曜日にスワコップに泊まる、ってのが私にとっては重要なのだ。
あ、もう一つ重要なことがあった！ガイドは誰だ？まさか、又あいつか？
「安心してくれ、今度はちゃんとした正式なガイドだ。彼は非常に評判がいいんだ。安心してくれ」
う〜んおっちゃんがそーゆうんだから信用しましょう。多分、大丈夫だと思う。多分。
翌日、再びスワコップムンドへ移動。約束どおりピックアップ代は出してくれた。おまけにピックアップ乗り場まで送ってもらっちゃったよ。いいおっちゃんだよホントにもう！
さて、私がスワコップへ再び来たのには理由がある。ある宿に泊まりたかったのだ。それも金曜日に。
これは他の旅行者から聞いた情報なのだが、スワコップの宿には、金曜日の夜だけ魚料理を無料で振る舞ってくれる宿があるのだ！しかも食べ放題なのだ！スワコップは海辺の町だから魚がウマイのだ！私は魚好きなのだ！
はい、当然その宿に泊まりました。場所は町外れにある何とかスペースバックパッカーズって宿だ（ちゃんと名前覚えとけよ）。
この宿、町から遠くてちょっと不便だが、宿のほぼ目の前に小さな砂漠があるのだ。ナミブと比べたらオモチャみたいな砂漠だが、それでも歩いてすぐの所に砂漠があるのは嬉しい。
そしてその宿にチェックインした時、宿のオヤジさんが笑って教えてくれた。
「いやー、君はラッキーだよ。ちょうど今日の夜、魚パーティーがあるんだ。お金はいらないから遠慮せずに食べてくれ」
「ええぇー、そーなんですかあー。いやあー、しらなかったなあー。わたしはなんてラッキーなんだあー。うれしいなあー」
白々しく応えたのはゆうまでもない。いくらなんでも「その魚料理を食うためだけにやって来ましたあー」とは言えないもんね。
そしてこの宿、なんかモダンな造りだねー。ちょっとした前衛芸術みたいな建物だ。そしてここには、一人のわんぱく坊主がいた。５才ぐらいだろうか、元気な男の子だ。
この子が三輪車を乗り回してるのだが、メッチャ早い！狭い庭を縦横無尽に猛スピードで突っ走ってる。メッチャ小回りがきくぞ。よくぶつからないものだ。感心するよ。
んで、この子が私を休ませてくれない。なんだかんだ言って一緒に遊ぼうとするのだ。「カムッ！カムッ！」とか言ってお誘いをかけてくる。ちょっと休ませてよー。おぢさんそんなに若かないんだから。
そーやって子供と遊んでいるとあっとゆう間に夕飯の時間です。待ちに待った魚の時間です。実は夕飯前にすでに魚を焼き始めていたのだが、うまそーだぞー。何匹も何種類もの魚だ！
しかも、出て来たのは魚ばかりじゃない。色んな種類のパンまで出て来た。これも食べ放題だ！！
ウ、ウ、ウ、ウマイ！メッチャクチャうまーーーい！！
もう、たまりません！！焼いたのもありゃあ揚げたのもありゃあ薫製にしたのもある。みんなみんなどれもこれもウマイのだ！！特にもう皮なんかヌルヌルクニュクニュパリパリ、みんなそれぞれにウマイ！私ゃ魚の皮も大好きなのだ。魚の皮を残すヤツの気が知れないね。
そして、その宿には偶然日本人のカップルも泊まっていて、その方達が、なんと、『お醤油』を持っていらしてたのだ！！
あなた、魚っていやあ醤油でしょ。日本人っていやあ醤油でしょ。魚と醤油と日本人。もう魅惑のトライアングルだね。よくぞ醤油を持って来てくださったよ。基本的にカップルが嫌いなわたくしも、この時ばかりは感謝しまくりました。
それから一緒に出て来たパンもみんなウマイ。特にガーリックトースト！もう、ホントたまりません。
もう、醤油垂らして魚食ってパン食って魚食って醤油垂らして魚食ってパン食って・・・。ものすごい量だ。とても食べきれない。私、腹がパンパンになるまで食ったけど、まだ残ってた。宿のおっちゃん達大丈夫か？こんな大盤振る舞いして。宿代だけで採算合うのか？心配になっちゃうよ。
きっとオヤジさんが太ッパラなんだろうな。見かけも太ッパラだ。
みんなぁ、スワコップムンドに泊まる時はこの宿にしてくれぇー。名前は『何とかスペースバックパッカーズ』だ（だからちゃんと名前覚えとけよ）。
さて、私は何も魚を食うためだけにここに来たのではない。奇想天外が見たかったのだ。
奇想天外。これは、なんと何千年も生きている植物なのだ。砂漠の地べたにペッタリ生えている不思議な植物だ。ここだけで見れるらしい。ここと言っても、車で遠出しなけりゃいけないぐらい遠い所にある。結局ツアーで行かなきゃならないのだ。
んで、町に出てツアーを探した。そしたら、無いんだ。奇想天外だけを見るツアーはどこもやってない。みんな他の見所をからめてるツアーばっかりだ。
他の見所ったって、半分ぐらいは砂漠ツアーの時に見たやつばっかりだ。こんなことなら砂漠ツアーの時に奇想天外を見るオプションを追加すればよかった。でもなー、結局はあのガイドだったから見ることはできなかったよなー。ケンカしてキャンセルしたんだから。
う〜ん、どーしよう。
で、結局あきらめた。ツアー代も思ったより高かったし。ま、縁が無かったんだろう。
しかたないので、近所の砂漠を見に行った。この小さな砂漠もナミブ砂漠って言うんだって。なんでも本物のナミブ砂漠とは地続きになっているらしい。この砂漠をずっと歩き続ければ本物のナミブ砂漠までたどり着けるのだろうか？ま、その前にひからびて死んじゃうだろうな。
ここの砂漠も、けっして悪くはない。ツアーと違って何時間でもいれるし。好きな時に好きなだけ来れる。
だけど、ナミブ砂漠を見た後では、どーしてもスケールが違い過ぎるのだ。砂の質や山の形だってナミブ砂漠とは全然別物だ。
順番としては、最初にここを見て、その後でナミブ砂漠に行けばよかったな。そーすれば両方をきちんと楽しめる。ま、もー遅いけど。
さて、そーこーしているうちに迎えの車がやって来た。なんと、今晩は私が泊まってる同じ宿に泊まって明日の朝ウイントフックへ向かうのだ。これは便利だね。待ち合わせだとかなんだとか心配する必要がない。
で、このツアーに日本人もいたので色々話しを聞いたのだが、私は驚いてしまった。
なんと、この人達、オプショ付きのツアーにしていたのだ。何のオプションかって？そう、奇想天外のオプションだ！
明日の朝、奇想天外が生えている場所を見学して、その足でウイントフックに向かうそうなのだ。
ん〜んと、んと、それは何かなぁ、彼らが奇想天外を見た後、もう一度この宿に戻って来て私を乗せるのかなぁ？そんなことしたら遠回りだよなぁ、どーするのかなぁ？
な、なんと、わ、わたくしも同行してもよいそうだ。やっぱりもう一度この宿に戻って来るのは遠回りなのだ。
ん〜んと、んと、え〜と、それは何かなぁ、私もオプション代を払わなきゃいけないのかなぁ？別に私が希望したわけじゃないものなぁ。そりゃ奇想天外は見たいよぉ。
わ、わたくしは、ウイントフックまでのピックアップ代だけでよいそうでございます。はい。メッチャラッキーでございます。棚からボタ餅ならぬ棚から奇想天外でございます！
いやなんか、すべてがいい方にいい方に進んでるね。もう、嬉しくなっちゃうよ！
さて、翌朝、タナボタツアーに出発だ。今回のガイドは、・・・第一印象は悪くない。人当たりも良さそうだ。それに、便乗してる私にもお昼ご飯を出してくれた。今度は大丈夫だよな。
ほんでオプションツアーだが、いきなり奇想天外じゃないそうだ。最初に行ったのはなんか荒涼とした所だった。ここに何かあるのか？ガイドは地べたにしゃがみ込んでいる。何やってるんだ？なんか、石コロ拾ってる。
何これ？え？生き物？どー見ても石コロにしか見えないのだが。なんでも石に擬態している不思議な生物なのだそうだ。ふ〜ん。言われなきゃ単なる石コロにしか見えないよな。ふ〜ん、生き物なんだ。
さて、よく分かんない生き物を見た後、いよいよ奇想天外だ！車は荒涼とした土地をドンドン進んで行く。
で、出た！道の向こうに地べたにへばり付いてるようなペッチャンコの大きな花（草？）がある。奇想天外だ！
「あ、おい、ガイド！あれは奇想天外じゃないのか？見ないのか？」
「そう、あれが奇想天外だ。まだ先にもっとイッパイある場所があるから、そこで見るんだ」
そーなのかー。でもちょっと止まってくれたって・・・。あ、又出た！なんかポツポツポツポツ奇想天外が生えている。石で囲まれてるようなのもある。あれは保護してるのか？まだ止まらないのかなぁ？
やっと止まった場所は、そこかしこに奇想天外が点在してる場所だった。確かにあっちこっちに生えている。さっそく走りよって覗き込んだ。
いやあ、なんか見るからに不思議な植物だなー。なんか、葉っぱが意外と硬いんだ。ペッチャンコのサボテンとでも言えばいいんだろうか。見るからに不思議だよー。面白いよー。それに、思っていたよりずっと大きいんだ。直径２メートル近くあるだろうか？
残念ながら季節が違うのか花は全部枯れていた。季節によっては花が咲いてるところも見れるんだって。
ガイドはこの植物に付いて色々説明してくれた。前のガイドとは大違いだよ。オス・メスの見分け方だとかなんだかんだと。脱皮するみたいなことも言ってたな。英会話能力が無いから完全に理解できないのが歯がゆいぞ。
けっこう時間をかけて見てしまった。だって面白いんだもん。一緒にいた日本人男性は興味深そうに見てたけど、他の欧米人は飽きちゃったのか、すぐに車に戻ってしまった。なんか、便乗した私の方が楽しんでるぞ。写真撮りまくってしまった。
こんな感じで奇想天外が点在してるのだ。
人と大きさを比べるとデッカイのが分かるでしょー。
ホント巨大なのだ。
いやー、ラッキーなオプショナルツアーだった。アルーシャの方も半額で行けるし。前回のツアーは運が悪かったけど、なんか、私の運も盛り返してきたなー！天気だってずっと快晴だ！
