ペンギン海岸を出てケープタウンに戻る日が来た。今度は電車で移動だ。ちょっと恐いぞ。ハンターＭは迎えに来てくれないもの。

　宿のおばちゃんの話しでは、この間の電車はそんなに危なくはないとゆうことだ。

　この電車は指定席はないけれど、３等車と２等車がある（だったかな？とにかく２種類ある）。おばちゃんが言うには、３等車には色んな（つまりあまり裕福でない）人が乗るからちょっと危ないけど、２等車ならちゃんとした人が乗るから安心なのだそうだ。

　大丈夫だろうか？やっぱりちょっと心配だぞ。間違っても居眠りなんかはしないようにしとこう。当然買う切符は２等車のいい方の車両だ。

　ところが、いざ乗ってみると、２等車にお客さんが全然いない。２等車の車両をさんざん探してやっと初老の紳士を一人見つけただけだ。とりあえずこの車両に乗っとこう。一人っきりの車両で襲われた日にゃあ抵抗できないものな。

　こんなことなら３等車に乗れば良かったかな。３等車の方はけっこうお客さんが乗ってるようなので、逆にそっちの方が安心かもしれない。このおじいちゃんがどっかで降りたら３等車に移ろう。

　列車が進むにつれて何人か乗車してきた（それでも７〜８人だが）。少しは安心かな？でも油断は禁物、神経集中しとこう。

　こーゆー時にかぎって眠たくなるんだよなー。私どうも電車に乗るとすぐ眠くなってしまう。あの揺れがいけないんだろうか？座席の上で足組み替たり腰伸ばしたり（この時さりげなく車内見回したりなんかしちゃったり）タバコ吸ったり、眠らないようにするのが大変だったよ。

　とりあえず無事にケープタウンに到着。いやあ疲れちゃった。

　で、一番危ないのがこーゆー時だ。緊張がほぐれてホっとした瞬間にやられることがある。駅周辺だって危険地帯なのだ。

　四方に気をくばって胸張って大股でズンカズンカ歩いてやっと宿に到着。いやあ、ホっとしたね。しかし疲れる旅行だなー。もっと楽チンに旅行できないもんだろうか。

「ただいま！又泊めてね。一週間以上！」

　さて、宿に戻ると一人の日本人が泊まっていた。なんと、ハタチの女子大生だ。おーすごいねー。ハタチの女の子がこんな所まで旅行するんだ。ところが、話しを聞くと、この人ものすごい女子大生だった。

　まず、この女子大生が南アフリカに来た理由がスゴイ。

　この人は新聞記者志望なのだ。小さい頃から新聞記者になるべく色々と努力してきたそうだ。んで、メールとかでヨハネスブルク駐在の某新聞社の新聞記者と仲良くなった。

　普通、これで終わるよね。ところがこの子、「そっち（ヨハネス）に行っていいですかぁ？取材のお手伝いさせて下さい」とか言ったのだ。で、来ちゃった。

　すんごい行動力だね。ヨハネスったらすごく恐い所なのに、この人はたった一人で乗り込んで来て、こないだまでヨハネスで取材の手伝いをしてたんだそうだ。ニコニコ笑いながら「すごくいい経験でしたよ。色んな人と知り合えたし、すごく勉強になりました」とか言っている。全然気負ってないのだ。

　ところが、そこまではよかったのだが、偶然（何かの予感があって？）突然その新聞記者の奥さんが日本からヨハネスブルクにやって来たのだ。で、女子大生はハッキリとは言わなかったが、私が思うに、どうも奥さんがその女子大生をダンナの浮気相手と勘違いしたんだな。

　で、新聞社をおん出されてしまったのだ。

　困るよね、いきなり右も左も分からないヨハネスにほっぽり出されても。しかたなしに彼女はケープタウンまでやって来たのだ。

　ところが、話しはそこで終わらない。

　こーなってしまったら、あきらめて旅行を楽しむよね、普通。ところがこの人、ケープタウンでもその行動力を全開にさせた。

　単身ケープタウンの地元新聞社を訪ねて行ったのだ。モチロン何のコネも無い。で、そこの人達と意気投合してしまったのだ。

「その新聞社の人達って、とってもピュアなんですよ。なんてゆうか、私の思い描いている新聞記者魂があるってゆうか、すごくイキイキしてるんです」

　なんか目ぇキラキラさせてそんなことを言っている。今はその新聞社に日参して取材の手伝いをさせてもらってるらしい。

　すんごい人だね。とんでもない行動力だ。私がハタチの頃、こんな行動力があっただろうか？・・・無かったよねー。今だってアヤシイもんなー。なんかおじさんったら、この女子大生に感化されてしまったよ。私も、もーちったぁしっかりしなくっちゃ。

　それにねー、こんだけスゴイ人は普通は私らみたいな怠惰な時を過ごす旅行者に対して冷ややかなマナザシを向けるもんだ。「ケッ、なに昼間っからゴロゴロしてんだよ。時間の無駄遣いだぜ」ってゆう感じでね。

　ところが、この人は全然そんな所がなかった。私達のバカ話しにもちゃんと耳をかたむけて「へー、そーなんですかぁ。すごいですねー」とか言ってちゃんと相手をしてくれる。

　この人はきっといい新聞記者になるんだろうな。どんな記事を書くんだろうか、楽しみだね。

　さて、再び戻って来たケープタウンですが、相変わらず雨が多い。そんな中、かろうじて日のさしてる日に何人かでテーブルマウンテンに登ることになった。メンバーは件の女子大生、ハンターＭ、そして私だ。じつは女子大生とハンターＭが登るってゆうのに私が便乗しただけなんだけどね。

　ハンターは何度もテーブルマウンテンに登ってるらしく、今回は楽に登れるコースを選んでくれた。私が前に行った初心者コースよりもさらに楽なコースがあるんだそうだ。なんか知らないけど、女性にはやけに優しいぞ、ハンターＭ。

　まずは登る前にスーパーに寄ってオヤツの購入だ。え？オヤツじゃないの？食料？ま、食い物も買うけど、遠足にはオヤツが必要でしょう。

　さっそく買ってきたオヤツを食べながら（もう食うんかい！）テーブルマウンテンに向かった。今回は優秀なナビゲーターがいるので、なーんも考えずに歩ける。景色を眺めるのが楽しいぞ。楽チン楽チン。所々でハンターＭの解説が入る。ガイドも兼務だね。少なくとも私だけだったらこんなサービスは無いぞ。と思うぞ。

　テーブルマウンテンのふもとの景色。なかなかいい景色なのだ。こんな景色を眺めながら登山はのんびり進む。

　それはいいんだけどさー。ハンターＭ、途中で地図見ながら「あれ？あれ？」とか言っている。大丈夫か？道間違えたの？

　そしてたどり着いたのはテーブルマウンテンのテッペン。の後ろ側。

　おーー、頂上（と思ってた所）にたどり着いたぞー。本当に平らな大地が広がっている・・・あれ？まだ向こうにも高台があるぞ。ありゃなんだ？

「ここ頂上じゃないね、頂上の少し後ろだ。道間違えたかなー。頂上への道はどこだろうなー」

　ハンターが困ったように言っている。

　しかし、この頂上の少し手前、ここだってなかなかいいぞ。本当の頂上はきっと観光客がワンサカといるのだろうが、ここはだだっ広い平原に私達三人きりだ。なかなか贅沢なんだな。

「オレ、ちょっと道探してくるわ。あんたらここで待ってて」

　言うが早いか、ハンターは道を探しに駆け出して行った。

　わ、私、別にここでいいんだけど・・・。これから上に登ると時間かかるんじゃないか？雨降ってきそうだし。あ、そうか、女子大生がいるか。彼女は登りたいだろうな。

「あの、どうします。まだ上まで登りますか？あたしはもうここで充分なんですけど」

「ありゃま、私ももうここでいいと思ってるんよ。なんか雨降りそうやしさあ」

　なんだ、問題ないじゃん。よかったよかった・・・。問題はハンターか？せっかく道探しに走って行ったのに・・・って帰ってきた。

「ダメだよー、道分かんないや。どーするー？」

「あ、そりゃしかたないわ。雨降りそうやしさー。仕方ないからこっから帰ろ。いやー色々ありがとーなー」

　とゆうことで、無事（？）下山することとなった。満足はしたんだけど、結局はテーブルマウンテンのテッペンには行けないんだよなー。私には縁がないのかなー？まあいいや、テーブルマウンテンは次来た時に登ろう（次っていつだ？）。

　山から降りて宿に戻る途中、女子大生がオシャレな喫茶店を見つけた。おいしそうなケーキまで売っている喫茶店だ。お客さんは全員欧米人だぞ。なんかここだけ完全にヨーロッパしてるなー。

　でもさすがだねぇ、おじさん達だけじゃぁこんなオシャレな店見つけられないぞ（ハンターＭも私とどっこいどっこいのおじさんだ）。私もこの道は何回か通ったはずなのだが、この喫茶店には全然気付かなかった。

　ケーキがおいしいねー。上品な味だよー。なんか久しぶりにちゃんとしたケーキ食ったな。三人で別々のケーキ頼んでみんなで食い合ってしまった。

　私はコーヒーも頼んだのだが、なんか、オレのコーヒー茶わんだけ小っけーぞぉー。ままごとじゃないっつーんだ！え？何？エスプレッソ？（だったかな？）何さそれ？私が頼んだ？そりゃ私そーゆーの頼んだよ。何か上品そうな名前だったからさ。何さ、それっていっつもこんな小っちゃい茶わんでくるの？本当か？オレが知らないからってダマしてないか？本当なの？何かサギにあったみたいだなー。まあ、おいしかったからいいけどさー。

　コーヒーが小っちゃかったことへのウサ晴らし。ってわけじゃないのだが、後日、日本人旅行者何人かが集まってケモノ肉を食うことになった。

　ケモノ肉。そう、ここケープタウンではレストランで動物の肉を食うことができるのだ。動物ったって牛やブタじゃない！ライオンとかキリンとかインパラとか、そーゆー動物だ。こんな肉なかなか食えるもんじゃない！ここでゼヒ食っとかなきゃあ！

　私達が食ったのは、『ケモノ肉の盛り合わせセット』何種類かの肉が盛り合わせられていて合計１.２ｋｇ！しめて１９８ランドだった（なんか日本の１９８０円みたいな値段の付け方だな）。

　なんかねー、５種類か６種類ぐらいの肉が出てきたのさ。ウエイターの兄ちゃんが一応説明してくれるんだ。これが何の肉でこれが何の肉でって調子で。ちゃんと覚えきれないぞ。

　で、食いました。なんかソースがいっぱいのってて、肉の味なんだかソースの味なんだかよく分かんないのだ。こーゆー味付けしないとちゃんと食えないような肉なのだろうか？

　しかし、そんなわけ分かんないソース漬けの肉の中で、すごくウマイ肉が二つあった。イボイノシシとダチョウの肉だ！これはうまかった！

　イボイノシシはねー、なんか豚肉のう〜んとヤワラカイやつなんだ。すんごいウマイぞ。この肉だけはもーいっかい食いたいと思った。それからダチョウ。一応鳥肉系統の味なんだが、これもなかなかおいしかった。

　ちなみに、インパラ（のデカいの）の肉はあったけどライオンやキリンの肉はなかった。ちょっと残念だな。

　さて、その後のケープタウンは相変わらず雨が多いです。そんな雨の中何やってるかってゆうと、相変わらずの読書と晴れ間を見計らっての散歩。それと、あと一つ大事な仕事がある。Ｔ／Ｃからドル現金への換金だ。

　普通、そんな両替は一日で終わるだろう。って思ってると思うのだが、なかなかそーはいかないのだ。色んな銀行に行って換金レートの差を見たり（銀行や両替所によってレートが少しづつ違うのだ）銀行に行こうと思ったら雨が降ってきて引き返したり、なんだかんだで三日ぐらいかかってしまった。けっしてグータラやってたわけじゃないぞ（と言い訳をする）。

　なんで急にドル現金が必要になったかってゆうと、私はもう一度ジンバブエに行くことにしたからだ。

　私がいた頃のジンバブエは、両替レートの正規と闇で２倍の差があった。で、私ら旅行者は闇両替えの旨味でウハウハな生活をしていたのだ。それがなんと、最近その両替レートの差が３〜４倍にもなってるそうだ。

　南アフリカで何人かの日本人旅行者に会ったが、その中でジンバブエから来てる人達もいて、そーゆーことを教えてくれたのだ。私がいた時以上にウーハウハな生活をしてたそうだ。

　オ、オレも行くーーー！オレも行ってウーハウハな生活をするんだ！

　当初の私のルートは、南アフリカを出た後、ナミビア〜ザンビア〜タンザニアと進む予定だった。だけど予定変更だぁ！ナミビアからジンバブエに再入国だ。

　だから今のうちにドル現金を用意しとく必要があったのだ。闇両替の旨味がある時に現金持ってなきゃ話しになんないもんね。

　で、そんなことをグータラやっていると（結局グータラやってたのかいっ）いつの間にか９月になってしまった。これはちょっと長居し過ぎだぞ。そろそろ移動した方がいいな。そして、この９月移動とゆうタイミングは、実にグッドタイミングなのだ。

　次に行こうと思っている町は、ナミビア国境の手前にあるスプリングボックとゆう町だ。この町は８月下旬から９月にかけて、町中が花だらけになるのだ。一年のうちでも花が咲き乱れるのは、この短い期間だけなのだ。この時期を過ぎてしまうと、あぁっとゆう間に花が枯れて無くなってしまう。せっかくそーゆーグッドタイミングの時期に南アフリカに来てるんだから、その花畑を見ないわけには行かない！

　と、ゆうことで、雨に悩まされ続けはしたが、ミョーに気に入ってしまったケープタウンとも離れる時がやって来た。

　さあ！気持ちを切り替えて移動だ！

　ケープタウンを出てしばらくたった頃、ハンターＭからこんなメールが来た。

「あんたが出てってから、ケープタウンは連日晴天だ！」

　悪かったねっ！どーせ私ゃ雨男さ！えーえーえー、自覚してますよーーーっ！