スプリングボックに移動したのは大形バスだった。ケープタウンからナミビアの首都ウイントフックへ向かう国際バスがあるのだが、スプリングボックへはその国際バスを途中下車する形で降りることになる。

　そしてこれがまた超豪華二階建てバス！イスフカフカリクライニングラクラクマドデカデカ、いいのか？こんなバスに私が乗っても？マダガスカルのあのバス移動は何だったんだろうか？出来ることならこのままこのバスに乗り続けたいぞ。

　そんな私の希望とは裏腹に、バスはなんの遅れもなくスプリングボックへ到着してしまった。６時間ぐらいしかかからなかったよ。

　着いた時間は日の暮れる直前だった。早く宿を探さなくちゃ真っ暗になってしまう。悪いことにこの町の宿情報はほとんど持っていなかった。あまりこの町に寄った旅行者はいないのだ。

　この町、この時期（８月下旬から９月はじめ）には町中が花だらけになって（それはもう、町中花畑）各地からイッパイ観光客がやって来るのだ。しかし、それ以外の時期は誰も関心を持たなくて素通りしてしまう。なので、この町の情報を持ってる人が全然いなかった。

　町外れに安く泊れるキャンプ場があるはずなのだが、この時間から行ってマトモにたどり着ける自信はない。私は雨男だが、それにもまして方向音痴なのだ。こんな初めての町で日暮れ近くに着いて無理してはいけない。少々高くても、この近所で泊まる場所を確保しよう。明日の朝、そのキャンプ場へ移動すればいいや。

　と思ったら、うまいぐあいにツーリストインフォメーションの看板がバス停のすぐそばにあった。まずはここでいい宿を紹介してもらおう。

　で、インフォメーションに行ったら（看板はすぐそばなのにインフォメーション自体は遠いのだ）宿めっちゃめちゃ高い！ドミトリーのある安宿なんか一軒もなかった。しかたないのでその中でも一番安い（でも高い）宿を紹介してもらった。

　連れてってもらった宿は、なんか普通の家みたいだ。おばあちゃんが出て来た。ここに泊まるのかな？ん？違うの？ここはおばあちゃんの家なんだ。泊まる宿は別の場所にあるそうだ。

　で、おばあちゃんに連れてってもらったのだが、何か知らないけどけっこうヘンピな場所に建ってるぞ。一つ間違えば野中の一軒家だ。しかもそこそこ広い建物に泊まるのは私一人だけ。他のお客さんはだーれもいない。おばあちゃんは自分の家に戻ってしまった。

　ちょっとちょっとちょっと、不安じゃないか。こんな広い家に一人っきりか？あなた、ここは曲がりなりにも南アフリカだぞ。ドロボーさんが入って来たらどーすんのさ。

　いやいやいや、洒落になんないよ。この状況は想像以上に心細い。なるべく人が多いように見せかけるために、そっこらじゅうの明かりつけまっくたよ。

　翌朝、さっそく宿を替わることにした。値段はどーでもいいけど、こんな不安な宿はちょっとカンベンしてほしい。

　で、安く泊れるキャンプ場の方まで移動したのだが、いやあ、噂どうり、町中花畑だ！

　道といわず空き地といわず丘といわず、そっこらじゅう花だらけなのだ。色とりどりの花が咲いているよ。おまけに天気も快晴！雲一つ無い青空だ！ケープタウンでの雨続きの日々がウソのようだね。

　しかしキャンプ場までがけっこう遠い。花イッパイの町を抜けて、荒涼とした大地のその又向こうにキャンプ場があった。遠いのはいいんだけどさー、このキャンプ場、テント張ってキャンプする人以外はあんまりよろしくない。一応テント持っていない人でも泊まる施設はあるのだが、泊まる気になんかならないようなホッタテ小屋以下のものだった。

　土壁だか藁葺きだかよく分かんないようなドーム型の小屋が土の上にポコンと建っていて、中は三畳ぐらいの広さだ。で、ドアは無い。入り口にカーテンがあるだけだよ。出入り誰でも自由ってやつだ。誰がこんな所に泊まるもんか。高い金出しゃあもうちょっとマトモなヤツもあるそうだが、ヤメタ。なんか兄ちゃんも愛想ないし町から遠くて不便だしこんなトコに泊まるメリットは何にも無い。

　しかたなしにまたえっちらおっちら町まで戻って宿探し。おばあちゃんの宿に泊まるのはもう嫌なので、町中のけっこう高い宿に泊まることにした。私にとってはかなり贅沢な宿だ。

　さて、宿も決まったことだし、あらためて花畑の町を散歩だ。

　もうスゴイねー。ホント行くとこ行くとここんな感じで花だらけなんだ。色とりどりの花があっちこっちに咲き乱れてて、根性がひねくれまがってる私でさえ、優しい気持ちになってくる。

　新しい宿のおっちゃんが言っていたのだが、この時期この町に咲いている花は、日替わりでコロコロ替わるそうなのだ。今日咲いてたと思ったら明日には枯れてしまって、でも別の場所で新しい花が咲いている。

　なので、毎日毎日違う花模様が見えるそうなのだ。そのかわり、今日見て気に入った花畑があったとしても、明日になると、もうその花畑は変わってしまっている。もっと良くなっているかもしれないし、逆に枯れてしまって無惨な姿になっているかもしれない。

　なんか、一期一会みたいだな。

　私はこの町に何日か滞在したが、宿のおっちゃんが言うように日によって花畑の雰囲気が変わっていた。すっごい広々とした所に黄色い花が一面咲き乱れている素敵な場所があったのだが、翌日行くと、ほとんどの花が枯れていた。

　まさしく一期一会だ。ある意味人生に似てるかもしれない。・・・ってちょっと大袈裟か？でも、ホントにそー思ったんだ。ケープタウンでは何人か日本人がいて、仲良くなった人達もいて、久しぶりに一人っきりになって少し寂しくなっていたのかもしれない。

　私は別に、この花畑が見たいためにスケジュールを組んだわけではない。ジンバブエの日食が見たくてアフリカに来て、流れのままに移動して来ただけだ。スプリングボックの花畑だって、南アフリカに来てガイドブックを見て初めて知ったんだ。そして、花畑の時期と私の移動速度が偶然一致してたんだ。

　呼ばれてたんだね。せっかく呼ばれたんだから、この時間を大切に使おう。そして、一つ一つの出会いを大切にしよっと。

　さて、せっかく呼ばれたスプリングボック、近所回りだけの散歩ではもったいない。自転車借りて遠出してみよう。

　実はこの花畑、町中よりも町から離れた場所に遥かに花が多い場所がある。本当ならレンタカーとか借りてそーゆー場所（何ヶ所かある）に行くのだが、自慢じゃないが私ゃ免許を持っていない。自転車で行くしかないのだ。

　宿のおっちゃんに自転車で行けるような距離にある花畑の場所を聞いて出発した。おっちゃんったら地図までくれたよ。さすが高級ホテルだね（私にとってはね）。サービスが違う。

　で、地図片手に自転車乗って出発だ。天気は快晴！Ｔシャツ短パンで十分だ。

　デッカイ道路を（鋪装されてて立派な道路）ズンズン進む。途中何ヶ所か小さな町があって、そこにも素敵な花畑達がいる。なんかあっちもこっちもキレイだね。寄り道しまくってしまったよ。朝早く出発して正解だった。

　そして、そんな小さな町で、嬉しい誤算があった。

　町の人達がみんないい顔してるんだ。大人も子供もみんな。久々ににこやかな挨拶が交わせたよ。うれしいよ。お話しだってちゃんとしたぞ。向こうもイヤな顔せずに応えてくれたぞ。小汚い商店でビール買って飲んでたら兄ちゃんやおっちゃんが寄って来て話しかけてくれたぞ。うれしいぞ（でも、少しだけ警戒している自分が悲しい）。

　よく考えたら、私は南アフリカの都会にしか行っていなかった。南アの都会の人はみんな個人主義とゆう感じで、交流とゆうのがほとんどなかった。ヤッパ旅行の基本は人だよなー。いくらいい景色や見どころがあったって、人が悪けりゃその土地を好きにならないもんな。

　でも、ここで少し反省。ケープの女子大生はそんな南アで、ものすごく深く南アの人達とかかわってたぞ。都会の人が個人主義ってのもあったのかもしれないけど、私だって腰が引けていた。あんまり突っ込んで南アの人と話そうとしなかったものな。

　でもなー、正直あんまり突っ込んで話しかけるのが恐かったりもしたんだよなー。なんせ南アだもんなー。強盗のメッカだもんなー。

　地元の人と全く関わりあわずとも旅行はできる。そして安全だ。だけど全然面白くない。かといって訳の分からん所で深入りすると痛い目にあってしまう。バランスが難しいよなー。

　てなことをウダウダ考えながら自転車走らせて、そろそろ目的地に着く頃だ。地図だともうそろそろなんだけどなー。ん？ありゃなんだ？・・・ふんっがぁぁあああああ！！！なんだありゃあ！花だ！丘だ！いや、花じゅう丘だ！違った、丘じゅうが花だらけだ！！

　なんだありゃぁ、ものすごいぞ。目の前に小高い丘があるんだが、すごく広い丘なんだが、東京ドームが何個も入りそうな程広い丘があるんだが、その丘が全部花だ！！驚いちゃったね。こんなの初めて見たよ。しばらくホウケて見とれてしまった

　コレがその花だらけ丘の写真なんだが、はっきり言って写真じゃあその壮大さが分かりません！何十分の一も分かってもらえないはずだ。ホントそれぐらいすごい花畑丘なんだ。実物を『はいどうぞ』って見せられないのが歯がゆいぞ！

　白い花ばっかり咲いてるブロックもありゃあ黄色の花のブロックもありゃあ色んな花が混じってるブロックもある。遠くから見てた時は、まさかあれが全部花だとは思ってもいなかった。

　残念ながら柵がしてあって中には入れないが、柵越しに眺めながらのんびり歩いてみよう。って柵が開いてる所があるじゃないか。そっから細い道が続いている。これは入りなさいってことかな？入ってみましょう！

　いやあスゴイよ。とんでもないぐらい花だらけだ。なんか、夢見る少女になっちゃうぞ。それにしても物凄く広い。いったいここはなんなんだろう。公園じゃないよな、何かの施設だろうか？とにかくだだっ広い。自転車でズーーっと走ってもまだ出口に至らなかった。そしてずっと花だらけなのだ。遠くに行くにしたがって花が咲いてる密度は落ちるんだけど、それでも花だらけだ。

　もうとんでもないね。宿のおっちゃんに教えてもらった花畑の場所はあと何ヶ所かあったんだけど、私、ここだけで十分満足だよ。お腹イッパイって感じだね。なんたってこの施設（？）の中を３時間ぐらい探検してたんだもの。もう、満足満足！

　さて、花畑も満喫したし、そろそろ移動の時間だ。次はいよいよナミビア。アフリカ四つ目の国だ。

　スプリングボックはナミビア国境の近くの町なのだが、実はここからナミビアに行くバスは無い。

　スプリングボックまで来たのはケープとナミビア間の国際バスを途中下車して来たのだが、今度はその同じバスに途中乗車することになる。でも、この町でバスの予約はできないのだ。色々旅行社を聞いてまわったのだが、何故か予約はできないらしい。ではどーするのか？

　バス停でその国際バスが来るのを待つのだ。そして、座席に空きがあれば乗せてってくれる。で、満員だったら当然乗れない。マダガスカルみたいに無理矢理詰め込むようなバスじゃ無いのだ。あきらめて宿に逆戻りだね。しかもこのバスは毎日出てるわけじゃない。週に２〜３本だ。満員だったら又２〜３日バス待ちしなければならない。ま、運まかせだね。私に運はあるだろうか？あやしいなー。

　さて、どーなるか分からない運まかせのバスを待っていた。３０分も前に待機してしまったよ。で、いよいよバスが来ました。で、満員です。・・・こんなもんだよなー、オレの運なんて。

　しかたなしにあきらめて帰ろうとした時、一人のおっちゃんが声をかけて来た。

「おい、ちょっと待て。今日はバスがもう一台来るぞ。今度は乗れるかもしれないからもうちょっと待ってろ」

「え？日に二本もバスがあるの？」

「そうだ、今日は二本だ。もうちょっと待ってろ」

　本当か？でもダメ元だからなぁ。どうせ宿はこっから近いから、待ってみるか。

　なんだかんだで一時間ぐらい待ってたら、本当にバスが来た。いや良かったねー。おっちゃんにお礼言いたかったけど、おっちゃんはとっくの昔にどっかに行ってしまっていた。で、肝心のそのバスだけど、やっぱり満員だった。

　おいおいおい、せっかく待ってたのに、なんとかならないかなぁ。最初のバスは満員と言われてすぐあきらめたけど、せっかく一時間も待ってたんだからちょいとゴネてみよう。

「通路でもいいから乗せてくれないか？お金はちゃんと払うから」

　運転手や車掌に頼み込んでみたら、「ちょっと待ってろ」とか言ってくれた。なんとかなるのかな？

　・・・いやー、なんとかなったよ。無事乗れることになった。しかもちゃんと席がある。どうやらおばちゃん３人のグループに相席させてもらうような形にしたみたいだ。なんだなんだ、ちゃんと席開いてるんじゃないか、もったいぶってさ。

　しかし感謝は忘れちゃいけない。おばちゃん達にも「よろしくね」とか言って無事ナミビアに向けて出発。フカフカのイスに座って快適快適。こんな楽チンな国境移動は初めてだよ。

　さあ、ナミビアだ。いったいどんな国だろう。楽しみだね。

ナミビア編に行きます