トゥールスレーン刑務所博物館。・・・元は高校の校舎だったそうだが、ポルポトがカンボジアで暴れてた時に、囚人を（って言ったって何の罪もない人達だが）監禁し、残虐の限りをつくしていた所だ。・・・と言う事ぐらいは知っていた。知ってはいたが、やはり知識と実際に見るのとでは別物だった。

　最初の部屋に入ると、ガラーンとした部屋にベッドが１つ。

　そして、壁には同じベッドの上に死体が転がってる写真が１つ。

　ポルポト派達がプノンペンを逃げ出す時、十何人かの人達をベッドに縛りつけ、そして殺し、そのまんまにして、死体をそのまんまにして逃げ出したらしい。ベッドには殺された人の衣服や、手かせや足かせをそのままにして展示してある。

　写真を見るとすごい状態だ。身動きがとれない相手に、拷問の限りをして殺したのだろう事が伝わってくる。衣服には、血の後だと思われるようなシミが付着しいていた。

　そんな部屋が何部屋か続く。やはり衣服や足かせがそのままのベッドに写真が一枚の部屋が。これは、最初からえらい事になってしまった。ついさっきニコニコして機関銃撃ってたことを後悔してしまった。最初にここへ来てたなら、きっと撃ちには行かなかっただろう。

　次の部屋は、さほど広くもない部屋にレンガを積んで、これでもかとばかり細かく細かくしきってある。きっと独房にしてたのだろう。１つ１つの独房はすごく狭くそして細長い。きっと畳２畳分もないだろう。

　部屋の入り口付近には、片方の鎖を地面に埋め込んだ足かせがあった。５０センチも無いような短いものだった。これじゃあ全く身動きがとれないじゃないか。そして、その横に空のヤッキョウの入れ物があった。これは何に使ってたんだろう？弁当箱の代わりだろうか？それとも便所の代わりだろうか？

　こんな部屋にずっと入れられていたんだ。そして、毎日毎日拷問を受けていたのだろうか？光なんかほとんど入らない様なこんな部屋で。

　・・・なんだか、だんだん落ち込んできてしまった。そして、次の部屋は、次の部屋が一番強烈だった。

　部屋一面に写真が展示してある。

　次の部屋も、又次の部屋も。

　それこそ、何百、何千枚とある。

　これらの写真は全部、殺された人達の、殺される前の写真だ。

　すべてポルポト派達が殺す前に写したものだそうだ。

　何のために写したんだ？面白半分か？コレクションか？

　写された人達は、どうゆう気持ちでカメラの前に立ったのだろう。これから自分が殺されることは分かっていたと思う。

　カメラを睨みつけてる人がいる。なんとも言えない表情でカメラを見ている人がいる。薄笑いを浮かべてる人もいる。後ろ手に手を縛りつけられてる人がいる。顔が傷だらけの人がいる。唇がめくれ上がってる人がいる。男や女の人や子供や、お年寄の人達まで居る。

　とてもじゃないが、ザッと流して見ることなんて出来やしない。一枚一枚、一人一人じっくり見入ってしまう。

　かなり落ち込んだ気分で次の部屋へ行く。そこは実際に使われた拷問の道具と、どうやって使ったのかが、イラストで展示してある。水攻めの道具や、爪や皮膚を剥ぎ取る道具やらだ。

　ほんの少し前に、この場所で実際に拷問や虐殺が起ってたんだ。・・・もし、私がここにいたらどーなってたんだろうか。あの狭い独房に入れられて拷問受けてたらどーなってしまっただろう。私は弱い人間だから拷問受ける前に自殺していたかもしれない。

　拷問する側の人間はどんな気持ちでやってたんだろう。喜々としてやってたんだろうか？やりたかないけど仕方なくやってたんだろうか？そしてその内におかしくなってきたんだろうか？

　・・・もし私が拷問する側だったらどーなっただろう。もちろん、やりたくは無い！でも、もし拒否したら、拷問される側になってしまうのだろうか？それが嫌で、嫌々でも拷問してるうちに、だんだん喜々として拷問するようになるんだろうか？

　・・・そーだよなー。機関銃撃って喜んでる様なヤツだもんなー。立場が変わればどうなったか分かんないよなー。あんなモン撃つんじゃなかったよなー。物凄い自己嫌悪だ。

　校庭で少し休んでも、気分はあまり晴れなかった。後悔と自己嫌悪と落ち込んだ気分を引きずって、もう一度だけ見て回る事にした。なぜか、すぐ帰る気分にはなれなかったのだ。

　お土産にもらったヤッキョウが、歩くたんびにポケットでカチャカチャ鳴っていた。物凄く恥ずかしかった。