リージャンへはバスで来たんだが、バス停でいきなり宿の客引きに捕まってしまった。なんか、不思議な二人組の客引き小姐（シャオジー）だ。１人はヤンキー風の小姐で、もう１人がいやに純情そうな小姐だった。ヤンキー小姐の方が主導権を握ってたのだが、以前泊まったお客が書いた『この宿のお勧めメッセージ』を持っていた。

　よく客引きが持っているアレなのだが、ほかの宿でよく見せられるメッセージとは少し違っていた。

　そこに書いてる内容なんだが、メチャメチャ心がこもっているのだ。よくあるオザナリで適当に書いたメッセージとは全然違っていた。この宿がどんなに素晴らしい宿なのかを、細かい字で一生懸命書かれていた。しかも、全部のメッセージが。

　へー、こんな紹介文は初めてだなー。それに、宿で出てくる夕食が信じられないくらいウマイとも書かれていた。チョット泊まってみようかな？「ねーねー、１泊イクラなの？」

「ドミトリー１５元。シングル２０元」

　・・・けっこう安いのかな？「ねーねー、ドミ１０元にして」

　このあたりから筆談になっていくのだが、又ヤンキー小姐が面倒くさそうに紙に書くんだ。ホントに客引きする気があるのか？

　なんだかんだで、とりあえずドミ１０元で話しがついた。ヤンキー小姐が宿まで案内するのかと思ったら、彼女はそのままここに居残って客引きを続けるらしい。そして、案内するのはほとんど喋らなかった純情小姐の方だった。この子とはほとんど話ししなかったけど、１泊１０元はちゃんと理解してるのだろうか？

「大丈夫か？本当に１０元で泊まれるの？」

　いくら聞いても純情小姐はニコニコするだけで全然答えてくれない。

　そして、宿に着くとこの宿の主人でもあるオバちゃんが迎えてくれた。

　このオバちゃんが又、思いっきりの人の良さが思いっきり顔面に出ている人なのだ。そして、すーごく良い笑顔をする。その思いっきり人の良さそうな顔でとうとうと言われてしまった（筆談だけど）。

「あのね、この２階にね、１ヶ月ぐらい宿泊してる日本人がいるのよ。その人からはちゃあんと１５元取ってるの。それなのにアンタだけ１０元じゃダメでしょ」

　うーーむ。なんて説得力のある説明なんだ。あの顔でとうとうとそんな事言われた日にゃあ、１５元で納得するしかないわなー。しかし、あのヤンキー小姐には一言文句を言わなきゃ気がおさまらないぞ！例の小姐が帰ってくるのを待ちかまえて文句を言ってやった。

「なんやねん！１０元とちゃうヤンケ。やっぱり１５元やったぞ！」

「いージャンかよー。どーせこの宿気に入ったんだろー。１０元も１５元も一緒ジャン。ＯＫ，ＯＫ」（フィーリング的翻訳）

　な、なんてヤツだ！悪いって気が全く感じられないぞ。トンでもないヤツだ。

　しかし、長く付き合っていくうちに、このヤンキー小姐は、とても心根の優しいいいヤツである事が判明する。そして、もう１人いた純情小姐は、後に、トンでもない天然ボケ小姐である事が判明する。

　この宿はオバちゃんが取り仕切ってるようなのだが、オバちゃんには旦那さん（オッチャンだな）がいるんだが、このオッチャン、何やってんだ？

　オバちゃんはいつも買い出しに行ったり料理作ったりお客の面倒見たりと、忙しく働いてるのだが、オッチャンが働いてる所は見たことないぞ。日がな一日ボーッとして、たまーに花に水やって、唯一の仕事が夕飯時に我々のご飯をよそうだけなのだ。

　こー書いてるとトンでもないダメオヤジのようなのだが、実はそんな事はないのだ。どー言えば良いのだろうか？難しいのだが、このオッチャン、キャラクター自体が非常にいいのだ。なんか、すっごく情けない笑い方をするのだが、その笑いがたまらなく良いのだ。ナゼかこの宿にはオッチャンのファンが大勢いる。この情けないオッチャンがいなければ、この宿の魅力は半減するかもしれない。

　そしてこの夫婦には１人の娘がいた。小学校６年生ぐらいの女の子なんだが、タンタンとゆう子で、メッチャクチャ可愛いのだ。オヂサンは出来れば１０年後ぐらいに会いたいぞ。

　そして！この宿で忘れちゃならないのが飼い犬の花ちゃんだ。本当はチャンとした中国名があるのだが、後で登場する姉さんが「この子は花ちゃんなのっ」と、勝手に決めつけてしまい、それ以降日本名“花ちゃん”が定着してしまった。

　この犬がトンでもない犬なのだ。普通犬は犬小屋にいるのだが、彼女がいるのはドー見たって犬小屋とは言えない。ほとんどゴミ箱だ。古〜い古〜い小汚い段ボール箱の中で、非常に険のある目をして縮こまっている。私達が手を出すと、もーーーのすごい勢いで噛みついてくる！なんか、体が真っ黒だぞ。何なんだこの犬は？本当は白い犬なんだろうが、今はどー見たってネズミ色にしか見えない。そして、シッポが異様なんだ。なんか、途中から９０度に曲がってるぞ、シッポが。アンバランスに太いシッポだし。それに、目がやっぱり変だ。万物に対する怒りを思いっきり目で表している。こ、この犬に近づくのはやめておこう。

　しかし、この花ちゃんも、後に日本人泊り客が中心となって行われた花ちゃん改造計画によって、ものすごい変身をとげるのであった。

　さて、宿の人達はこのくらいにして、泊り客の方なのだが、宿の人達に負けないくらいの個性的な面々が揃っていた。

　まずは、オバちゃんが言っていた１ヶ月近く泊まってる日本人。通称、団長だ。結局私はこの人と同じ部屋に泊まることになるのだが、この人は４０才を遥かに越えた中年オヤジなのだが、ものすごい過去を持っていた。

　去年の今頃、団長は大理に居たそうなのだが、そこで馬車使い達に襲われてしまったそうなのだ。

　最初は馬車使い達と意気投合して、彼らの家で酒を飲んでいたそうなのだが（団長はすでにヨッパラッていた）気が付くと彼らの手が団長の体に伸びていたらしい。モチロン貴重品や財布を狙って。団長、慌てましたよ、そりゃそうだ。家ん中で大暴れしてなんとか外に逃げ出したらしいのだが、そのままでは危ない。町まで逃げ帰らなきゃいけない。しかし、彼らには馬車の馬があるのだ。全力疾走と馬じゃあ始めっから勝負は見えている。

　そこで団長は、普通の人では考えられない行動に出たのだ。ついさっきまで自分が乗っていた馬車に、いや、その馬にまたがって馬を蹴立てて馬車ごと逃げ出したのだ。ガランゴロンガランとか音立てながら馬車を引っぱって。

「だ、団長、馬に乗れるんですか？」

「乗れるわけないだろ！馬なんか乗ったことないよ。しかし、人間イザとなりゃ何でもできるモンだなー。自分でも関心しちゃたよ」

　この日より、団長は大理で『馬車泥棒の団長』とゆう名誉ある汚名をきせられたそうだ。

　そして、この宿にはもー１人、日本人の女の子が泊まっていた。通称クマさん。ハタチの大学生で学校で中国語を勉強してるそうなのだが、私ゃこんなユニークで話題豊富なハタチは見たことない！彼女のエピソードだけで３６０ページぐらい書けそうなのだが、そーも言ってられないので１つだけ。クマさんのアダナの由来なのだが。

　彼女は大学に自転車で通学してるのだが、冬は寒い。なので、冬は防寒用の帽子をカブって通学しているそうだ。耳までスッポリ覆える帽子で首の所でしばっているそうだ。そして、その帽子にはクマの耳が付いていた。しかも立体的な。ハタから見てるとクマの着ぐるみの頭だけカブってる状態だ。

　そんな格好で通学してるもんだから、大学ではかなりの有名人らしい。見知らぬ人にもよく声をかけられるそうだ。

「あ〜〜、あなたの事知ってますぅ。クマの自転車の人ですよねー」とか、「あ〜〜、今年の冬もクマが出て良かったですぅ。去年の冬見てて面白かったから、今年も出るといいなーって思ってたんですよー」とか、見知らぬ人の立ち話で「おい、知ってるか？この大学ってさぁ、冬になると自転車に乗ったクマが出るんだってさー」とかとか。話題を振りまいているらしい。

　そして、ユニークなのは日本人だけじゃなかった。彼ら日本人のほかに、フランス人一家が泊まっていた。優しそうなお父さんに、これ又優しそうなお母さん。そして、５才ぐらいだろうか？ムッチャ可愛い娘さんのスージー。

　他にも欧米人は泊まりに来てたんだが、他の連中は殆ど宿で夕食は食わなかった（メッチャクチャ美味いのに）。毎回食ってたのはこの一家だけだった。そして、メッチャフレンドリーなのだ。お父さんはスージーがカワイクてしょうがないらしい。私が見ててもムチャクチャ甘甘だ。

　しかし後に、このスージーはトンでもないヤンチャ娘である事が判明する。お父さんは「この子はノンストップ爆弾だからねー」と、嬉しそうにボヤいていた。

　それから翌日には、３人の日本人旅行者がこの宿にやって来た。２人の男性と１人の女性だ。全員バラバラでやって来たのだが。

　まず一人目がヒゲ君。なんか、ケッコウ線が細そうなのだが、妙にヒョウヒョウとして、しゃっちょこ張って歩いてて、ワケわかんない雰囲気をかもし出していた。そして、後に、彼の何気ない一言が発端となって大事件が勃発するのであった。

　もう１人の男性が、ボンさん。なんとゆうか、大胆とゆうか大雑把とゆうか、彼にも面白いエピソードがイッパイあるのだが、ナゼかここでは書けない話題が多いのだ。私は実に惜しい！

　そしてボンさんは、先に出てきたクマさんとミョウに気が合って、いっつも軽口を言い合っていた。 「何だコノヤロー、ブッとばすぞ！」 「んだとコラぁ、あたしをナメてんのかあ？オォ？」

　アレっ、ケンカしてるのかな？とか思ったが、単に遊んでるだけだった。いっつもこんな調子だった。後にボンさんは、

「イヤー、あれはオレが彼女に合わせてやったんだよ。やっぱりあーゆー時は大人が合わせてやらなきゃね」

　とか言っていたが、ハタから見てるとイキの合った漫才コンビにしか見えなかったぞ。

　そして、最後の女性が、姉さん。いつも、ショールをマントの様に肩から巻いて歩いていた（まるでムーミンに出てくるスナフキンの様に）。なんとゆうか、物静かなんだか明るいんだかフザケてるんだか良くわからない人なのだが、肩の力が抜けた、すごくいい表情をしているのだ。最初見た時、へ〜、いい表情してる人だなー。とか思ってしまった。

　そして、この姉さんもクマさんと仲良しになって、翌日、２人してリージャンの郊外へ出かけて行った。そして、その帰りに、バスだかタクシーだか馬車だかのボッタクリに会ってしまったそうだ。

　しかし、姉さんは百戦錬磨のボッタクリに対しても一切ひるむ事もなく、キゼンとした態度で対応したそうだ。後にクマさんが、 「マントをひるがえしてサッソウと戦う姉さんを見て！あぁたしは姉さんに惚れましたああーー！！」

　とか言っていた。気持ちはわかるがクマさん、変な道に走るんじゃあないぞ。

　さて、初期の主要人物が勢揃いしたところで、これから色んな出来事やら事件やらが連発するのであった！！