翌日、団長は昼前から出かけて行ってなかなか帰ってこなかった。昨日はだいぶヨッパラってたみたいだが、大丈夫だろうか？

「ねー、団長ドコ行ったんでしょうね？なかなか帰ってきませんよね」

「そーやねぇ、ホンマに四方街で１７才小姐と暴れてるんかなあ？」

「だったらスゲエ人だかりだろうな。なんたって中国人、なんかってゆうと取り囲んで見物するモンな、とんでもねぇ連中だぜ。だからオレゃ中国人嫌いなんだよ」

「ほんまボンさんは中国人嫌いやんなあ。でも、雲南の人はえー人ばっかりやで」

「まーなぁ、雲南人は中国人じゃネーからな」

　なんか知らないが、ボンさんはえらく中国人を嫌ってるのだ。そのくせ何回も中国に来ている。

「でも、本当に暴れてるんならボクも見物したいですよ。リージャン最後の日にそんなの見れたら、もー思い残すことないですもん」

「なんや、まだ移動する気かいな。もーちょっとおったらえーやんか」

「ダメですよぉ、ただでさえリージャンは予定より長く居るんですから、ボクは基本的に移動型の旅行者なんですよ」

「えー、ワシかって移動型やでぇ。その私がまだおるのにナンでキミがもー出ていくねんなぁ」

「ワケわっかんねー理屈だなぁ、だけど本当に団長どーしたんだろう？」

　私達が心配（？）してるのをヨソに、団長は夕方帰ってきた。なぜかミョウにフッ切れた顔をしている。

「あれっ、団長えらくフッ切れた顔してんジャン、とーとー結婚決意したんだ！」

「バカ言ってんじゃねぇよ！三角先生に翻訳お願いしてきたんだよ！」

「えっ、結局センセーのとこ行ったんや。えっ、ホンでそのフッ切れた顔ちゅうのは・・・？」

「心配でしかたなかったんだよー。いてもたってもいられないから、ハジをしのんで聞きに行ったんだ！そしたらお前、全然内容が違うじゃねーか！まったくお前らは好き勝手なコトいーやがってよー」

「あら、じゃあアレはプロポーズじゃなかったの？」

「あったりまえだよ、先生に笑われちゃったじゃねーか！なーんにも心配することないってさ」

　なんなんだそれは、せっかく我々が期待、いや、心配してたのに。なんかガッカリな結果になってしまったみたいだ。そして、団長の口から三角先生による翻訳の結果が発表された。それは、我々をガッカリさせるには十分な内容だった。

『オジサンへ。

　オジサンっ、あたしが結婚するときは、お客さんとしてお家に来てお祝いしてね。

　だけどね、あたしは知ってるんだ。オジサンはあたしのコトが好きなんだよね。

　でもね、あたしはオジサンとは結婚できないの。だって、あたしは中国人なんだもん。日本人のオジサンなんかとは結婚できないわ。

　だけどね、友達としてなら、これからもずーっと仲良くしてあげるからね。

　じゃあね、オジサンっ』

「な、なんじゃそりゃぁー。クマさんの翻訳と全然ちゃうヤンカ！」

「ホントねー。正反対だわ」

「しっかし、なんて女なんだよ、思いっきり自己中じゃねーか。やっぱり中国人だねー。だぁからオレは中国人が嫌いなんだよ」

「ボク、なんのタメに１泊延ばしたんだか・・・」

「だから言っただろーが、彼女とはそんなんじゃないって。まったく、オレが昨日どれだけ落ち込んだかわかってんのか？」

「えー、ホンマに落ち込んでたんですか？」

「あたりめーだよ、もーいろんなこと考えちゃったよ。どーやって説得しようかとか、年に合った人探した方がいいよとか、いっそ学費渡して『キミはマダマダ若いんだ。もっと勉強することがあるだろう。この金で学校でも行って勉強して、将来ステキな人見つけた方がいいよ』って言ってリージャン去ろうかとか、もー昨日はグッチャングッチャンだったんだぞ！」

「へーー酒飲んでそんなコト考えてたんだ」

「それって、足長オジサンみたいね」

「なにが足長オジサンだよ。ホントにお前らは人の気も知らないで勝手なこと言いやがってよー」

「チョットぐらいは結婚しようかとか思わんかったんですか？」

「思うわけねーだろっ！相手は１７才なんだぞっ、彼女の親はオレより年下なんだからな。・・・でも、まー安心したよ。いやーーなんかホッとしたなー。どーだ？明日あたり焼き肉パーティーでもしないか？」

「１人で勝手にやって下さいよ。なんか、疲れちゃったわ」

「ホンマやわー、持ち上げるだけ持ち上げといて、ストーンと落とすんやモンなぁ。やってられへんわ」

「なんだよそりゃぁ、まるでオレが落ち込むのを楽しみにしてたみてぇじゃねぇか」

「団長、オレは口じゃぁあー言ってたけど、心の中じゃぁ団長のこと心配してたんだよ。わかってよ」

「うるせぇなー、テメェだって喜んでただろ！」

「ボクはどーなるんですか？これじゃあナンのために１泊延ばしたのかわかんないじゃないですかー」

「なに言ってやがんだ！元はと言えばテメェの一言がキッカケじゃないか！しっかし、クマのヤローもクマのヤローだ、とんでもねぇ翻訳しやがって。学校でナニ習ってんだ？今度会ったらはっ倒してやっからなぁー！がぁっはっはー！」

　なんともお粗末な顛末であったが、この夜より、団長の幸せな酒盛りが再開したのは言うまでもない。