私が泊まってる中年部屋は２階にあって、２階には３部屋あるのだが、残りの２部屋に２組の中国人カップルが泊まっている。

　いつものように、夜中団長と部屋で火爆飲んでいたら、隣がすごくヤカマシイいのだ。なんか隣のカップルが異様に盛り上がっている。

「ったくウルセーなぁー。ここはひとつ、火爆でも持参して突入するか」

「うるさいって、たんに一緒に飲みたいだけとチャウんですか？」

　って、返事しないうちに隣の部屋へ行ってしまったよ。・・・普通は「お前も行くか？」って誘わないか？

　誘われなかったので、しかたなくコップ持参で自分から行きましたよ。あんなに盛り上がってるのに指くわえて待てるわけないじゃないか。

「ヤッホッーーー！！ニーハオ！△ЩЖ⊂∀×○￥！！！」

　な、なんだこのネーちゃん？異様なハイテンションじゃないか！挨拶する間もなくコップに酒注がれてしまったよ。えっ？一気飲み？いや、いきなり、そんな、ゴクゴクゴク。

　き、きっつい！これも焼酎だ。私に酒すすめたネーちゃんも一気飲みしている。なんか、メッチャクチャ酒強そうだ。

　乱痴気騒ぎのメンバーは、隣の部屋の中国人カップルに、その隣の中国人カップルの男性の方だけの３人だ。あのハイテンションネーちゃんは奥さんだろうか？ダンナの方は人の良さそうな顔をしてニコニコ笑っている。もー片方のカップルのダンナの方は(このカップルはものすごく真面目そうで、さわやかなカップルなのだが)、・・・明らかに潰れている。目の焦点が合ってないぞ。どーも、このハイテンションカップルの毒気にやられてしまってるみたいだ。

「おーおーおー、来てくれて助かったよ。この奥さん、トンでもないぞ。ルーさんの女版だ」

　あの団長がたった数分で圧倒されてしまっている。恐るべきカップルだ。

「なにコソコソ話ししてるんだ！！飲まねーかぁ〜〜〜！！！」(多分、この訳は合ってるだろう)

　えらいコトになってしまった。この奥さん、歌うは叫ぶわ踊るわゲームやらせて負けたら酒一気飲みさせるわ、やりたい放題だ。なんか、私も叫んでノドが痛いぞ。

「この奥さんとハイホーを戦わせてみたかったなー。どーなっただろう」

「えー勝負すると思いまっせぇ。できたらスージーも入れて三つ巴で戦わせたいなぁ」

「まぁたコソコソ話すーー！！ワレ飲まんかいぃ！！」

「ダンナぁ、笑ろてんとこの奥さんなんとかせーやぁ！ホンマに地上最強の奥さんやで」

　日本語がわからないと思って好き放題のことを言っている。・・・って団長！ナニ寝てんねんなぁ！！

　団長ったら「後は任せた」とか言って頭っから毛布カブって寝てしまったよ。

「ちょ、ちょと、それ奥さんのベッドやで」

　なんか、団長が寝てしまって(すでに熟睡)ターゲットが私だけになってしまったじゃないか。ダンナはニコニコ笑ってるだけだし、もう一方のダンナはすでに戦線離脱してるし。逃げるに逃げれないぞ。

　ドンドンドンドンドン！！

　ん？誰だろう？えらい勢いでドア叩いてるぞ。

　ドアを開けると、泊り客の中でも一番物静かで穏やかな表情をしている男性が立っていた。顔面いっぱいに怒りをあらわにして。

「い、今何時だと思ってるんですか？周りの人の迷惑も考えて下さいよ」

　・・・今何時って？あ、もう夜中の2時近くなのね。あの、ちょっとヤカマシかった？・・・ちょっとどころでは無かったんだろう。口にこそ出さなかったが、彼の目は、

『オノレは今何時やと思ってケツかんのじゃ！ワシャ朝が早いんやぞ、オノレみたいに昼過ぎまで寝てんのとチャウんや！これ以上ヤカマシしとってみぃ、オノレの頭カチ割って脳味噌グッチャングッチャンにしてこますぞぉ！！』

　と、語っていた。

「す、すいません。あの、もー寝ますので。静かにしますので」

「お願いしますね」バッターンッ！！

　イカリ目のまんま思いっきりドア閉めて彼は帰っていった。

「も、もー寝ましょうね。なんか、他の人達がエライ迷惑してるみたいだから」

「寝るのはいいんだけど、この人なんとかして」

　ったく、団長はのん気に毛布かぶったまんま熟睡している。・・・あれ？とゆうことは、さっきの彼は団長がここにいたことを分かってないんだ。私一人が騒いでたように思ったかな？多分そーだろうな。ち、ちょっと不本意だぞ。

　揺すろうがオデコはたこうがまったく起きない団長を抱きかかえて、私は部屋へと戻っていった。私が運んでるとき、団長ったら寝言で「落ちるぅー、落ちるぅー」とか言っていた。本当に落としてやろうか？

　翌日、コトっちゃんがニコニコしながらよって来た。

　彼は最近この宿に越してきたのだ。きっとこの宿の居心地のよさに魅了されたのだろう。そして、ニッコニコ笑いながら話ししだした。

「昨日はすごかったですねー。メチャクチャ盛り上がってましたね」

「ゴメンなぁ、みんなヤカマシかったやろぉ」

「いやいやいや、あなたの声しか聞こえなかったですよ」

「うそぉ？他の人の声とかは？」

「ちょこっとは聞こえたけど、ほとんどあなたの声だけですよ。だって声デッカイもの。色々名文句があったよねー。『メイウェンティー』とか『ミンバイミンバイ』とか『お酒はおいしく飲もうよぉー』とか。オレも参加したかったぐらいですよ」

　なんてこった、ヤカマシかったのは私だけだったのか？あの中国奥さんだって十分ヤカマシくなかったか？

　他の泊り客にもお詫びを入れたんだが、皆さん異口同音に「あんたが一番やっかましかった」と、おっしゃっていた。・・・そーなのか？私の声ってそんなにデカイんだろうか？

　もう一方の、とゆうか、ほとんど主犯の中国人カップルは、昨日と変わらぬハイテンションで庭にやって来た。あの奥さん、酔っていようがシラフであろうが全然テンションが変わらない。

「あんな奥さんがいたら、ダンナ尻にしかれっぱなしだろうな」とは、団長の弁であった。

　彼らは今日のバスで家に帰るらしい。私達とまた騒ぎながらじゃれながら写真を写して帰っていったよ。ま、テンションの高さと声のデカさはともかく、とても気のいいカップルであった。

　ちょっとばかり二日酔いの私は、昼過ぎまで中庭でへばっていた(二日酔いでなくても同じような行動パターンのような気もするのだが)。

　そんなへばってる私とは対照的に、なんか、今日はオッチャンがいやに張り切っていたぞ。オバちゃんの指示の元、屋根ずたいに歩いてなにかやっているんだ。懐中電灯片手になにか調べ物してるみたいだけど、屋根なんかで何調べてるんだ？

「なーなーオバちゃん、オッチャンはいったいナニやってんのん？」

　オバちゃんによると、どうも停電してるみたいなんだ。しかも、この宿だけ。どっかの電線が切れてるらしいんだけど、それにしてもオッチャン、光ってんぞ！いつものグータラさはカゲを潜め、頼りになるお父さんになっている。やっぱりココ一番では一家の主としての本領を発揮するんだな。・・・公安の時は役に立たなかったけど。

　ところで、コトっちゃんがこの宿にやって来て、宿の住人で中国語を習ってるのは２人になったんだけど、そこに姉さんも参加することになったんだ。３人で一生懸命中国語を習っている。

　なんか、３人共輝いているのだ。教室が終わってからも宿の中庭で発音の復習なんかをやっている。すごく一生懸命に、そして楽しそうに。いい表情をしている。

　・・・なんか、私とはすごく対照的だ。一生懸命３人組とグータラ約一名の、みごとなコントラストだ。すごく肩身が狭いぞ。

　かたや、リージャン生活を有意義に過ごし、かたや、ホントになんにもせずにグータラし、庭でボッケーとし、挙げ句の果てに夜中ヨッパラって騒いでメーワクかけて。・・・わ、私も何かしなくっちゃぁ。

　しかし、なにやればいいのかなんにも浮かばず、しかたなしに腕立て伏せなんかしちゃったりなんかしていたのだが・・・・。

　そんなある日、本当になんにもせず庭でボーーーっとし続け、宿から一歩も出なかった日があった。その日の夕方、姉さんに一言いわれてしまった。

「あれ？今日は１回も外に出てないんじゃない？」

　ドッキッーーー！！「ななな、なにを、なにをゆーてんねんな！わ、私は今日はものすごー忙しかったんやから。そんな、あの、その、散歩しすぎてクタクタなんやから」

　ドギマギしながらウソ八百を並べたが、姉さんは不審そうな顔をして部屋に入って行った。

　・・・・そろそろ潮時かもしれない。いくら澄んだ水だって(誰が澄んだ水なんだ？)、ひとつ所にとどまっているとニゴってしまう。そろそろリージャンを出る時期かもしれない。

　実は数日後が団長の誕生日なのだが(しかも●十回目の記念すべき誕生日)、当然ながら誕生会をするのだが、それがすんだらリージャンを出よう。

　しかし、その誕生会は、ただではすまなかったのだ。