メッティーは、結局１泊だけになってしまった。夜、宿に帰ってホテルの人と話してたら、次の目的地“バゴー”ヘはバスが何本も出てて予約なんて必要ないらしい。しかもバス代が1,000チャットぐらいだそうだ。それぐらいなら両替しなくても大丈夫だな（結局ここでも両替しなかった）。そして、このホテルも何時にチェックアウトしようが追加料金は一切要らないと言う。チェックアウトタイムなんか無いのだ、夕方移動が多い人間には実に嬉しいぞ。
さて、宿の人が教えてくれたバス停に向かったら、全然場所が違うんでやんの。まーったく、ミャンマーの人もいい加減だわ。そこはバス停じゃなく角っこにある食堂だった。夕食のために立ち寄ったバスに交渉して乗り込むらしい。食堂のおじさんが、教えてくれただけじゃなく、一緒になってバスを探してくれた。食堂に寄るバス一台一台に声かけてくれて聞いてくれた。
ありがとうねー。本当にミャンマーの人は親切だわ。
ところが、確かにバスは何台も寄ってくるんだが、みーんなみーんな満員でどれも乗っけてはくれない。補助席まで使って目一杯人が乗ってたぞ。おじさんが言うには、今祭りのシーズンだからどのバスも混んでいるらしい。
うーん、ちょっと困ったぞ。宿の人は「メニメニバース。ベリベリイージー」とか言ってたが、全然イージーじゃないじゃないか。
なんだかんだで３〜４時間かかってやっとバスがつかまった。もー真っ暗になっちゃったよ。えーと、バス代は・・・「えっ？2,000チャット？なんで？ボラレてんのかな？1,000チャットじゃないの？」
「違う違う。このバスは2,000チャットだ。ここへ来るバスはみんな同じ値段だぞ」
食堂のオヤジが言うんだから間違いないだろう。どうやら、同じバゴーに行くのでもデラックスバスとローカルバスじゃあ値段が倍ぐらい違うらしいんだ。それで、宿のオッチャンが教えてくれたのがローカルバスで、バス停もこことは違う場所にあるらしい。
どーしよう。今オレの全財産は1,900チャットちょっとだぞ。おー、チャットちょっとって語呂がいいな。・・・なんて言ってる場合じゃないぞ！どーしようどーしよう。
迷ってる場合じゃないので急いでローカルバス乗り場へ走って行った。そーなんだ、ホテルのオヤジが適当に乗り場を教えたんじゃなくて、私が勝手に勘違いしてたんだ。そー、ホテルのオヤジが教えてくれたバス停の位置は正確だった。その通りに向かえばちゃんとそこにあった。そして、そこはすでに真っ暗だった。
一応そこらにいた人に聞いてみたが、やっぱり今日のバスはみんな出てってしまったらしい。どーするか？又ここに１泊するか、ドル使ってデラックスバスに乗るか。
結局どちらでもなくてピックアップトラックに乗ることにした。ここまで来たらやっぱり移動したくなったのだ。しかしデラックスバスに乗るお金は無い。トラックはまだ何台も走ってるからどーにかなるだろう。バゴー行きのトラックがあるのか怪しいが、ま、なんとかなるだろう。
・・・なんともならないんだよなー。ある程度ピックアップトラックは走ってるんだけど、全然止まってくれない。なんかヒッチハイクしてるみたいだなー。調子に乗って普通のトラックやら乗用車にまで手を上げていた。と言うか、道が真っ暗で車のヘッドライトしか見えないもんだから、どれがピックアップやら普通の車やらがてんで分かんないんだ。乗用車も止まってくれたが、これ以上どーやって人を乗せるんだ？ってぐらい車ん中が人だらけだった。お願いだよー、何でもいいから人が乗れる車が止まってくれよー、もー夜中だよー。
ハッキリ言って２時間はかかったぞ、もー真夜中だ。やっと、やっと止まってくれた（それまでにも何台か止まってくれたが、満員で乗せてくれなかったり方向が全然違ったりした）。
このトラックもなんか満員状態なんだが、とにかく乗せてはくれるみたいだ。行き先は・・・良く分かんないんだけど、とりあえずバゴーまでは行かないらしい（そんな遠くまで行くピックアップトラックがあるわけ無いじゃないか！と笑われてしまった）。何か知らないけど途中の何とかと言う駅まで行くからそっから電車に乗れ、と言う事らしい。とりあえず先に行けりゃあ何でもいいや。料金は200チャットだった。値段交渉せずにそのまま乗る（ここで乗車拒否された日にゃあ、目も当てられない）。
当然ながら車内は満員なので屋根に乗ることになった。うーん、まさかここで屋根乗車の初体験をするとは思わなかった。屋根の上は・・・屋根の上も満員だった。皆さんニコニコ笑いながら場所を詰めてくれたよ。ありがとうございます。
「チェーズーティンバーデー(ありがとう)。トゥヤダーワンダーバーデー(初めまして)」
「お〜〜〜」「やーやーやー」「なんだかかんだか〜」
お〜なんか知らないが歓迎してくれたぞ。嬉しいぞ。しかしなー、何で今ごろトゥヤダーワンダーバーデーが喋れるかなー。ニャウンシュエじゃあ、全然覚えられなかったのになー。悔しいなー、宿のアンちゃんに一言いいたかったなー。
トラックの屋根は中々眺めが良かったぞ。端の方に腰掛けて足は外に垂らしてブランブランさせて、流れる景色を見る。暗かったのは残念だが、風を受けて気持ちがいいぞ。気持ちが・・・。な、なんか、えらくスピード出してナイカイ？なんか、急にすっ飛ばし出したぞ！おいおいおい、何みんな笑ってんだよ。これ、出しすぎじゃないか？いくら夜で車が少ないからって限度があるぞ。時速100キロは出てんじゃないか？こ、怖いぞ。降り落とされッぞ、よくみんな手ぇ離して座ってられるな。オレなんか把っ手にしがみついてんだぞ。そんなに笑うなよー、怖いんだから。
私が乗ったトラックは爆走トラックだった。飛ばす飛ばす。景色見る余裕なんかなくなってしまったよ。他の車ドンドン追い抜いてかっ飛ばしてるよ。周りのみんなは笑ってるけど、私は把っ手にしがみついて一生懸命だった。
んでね、この爆走中に、助手のアンちゃんがトンでもない事しだしたんだ。
100キロ近くで走ってんだよ、その際中に助手席のドア開けて、足掛けて、手ぇ伸ばして、屋根までよじ登ってきやがんだよ！！何もんだお前！？スタントマンか？落ちたら死ぬぞ、命がけで何やってんだ！？
目を丸くしてる私の前で、そのアンちゃんは１人の客と何か話しをして、そのまま元来たように車のカベを伝わって助手席へと戻って行った。まるでスパイダーマンのように。
・・・さっきのは、何か？お客さんと打ち合わせしたのか？どの辺で降りるのかとか何とか。そ、それは車止めてからじゃダメなのか？命がけでやらなきゃならない事なのか？
私は、感動するやら呆れるやら、しばらくの間ボーっとしていた。
２時間ぐらいたっただろうか？やっと終点に到着した。小さな駅の前だった。・・・いったいここはドコなんだろう？未だにハッキリとは分からない。とにかく、どっかの町の小さな駅に到着した。当然ながら電車はもう無い。とりあえず、どっかに泊まらなくては。
トラックの中で、唯一英語がしゃべれるオジサンに色々教えてもらった。この人は学校の英語の先生で、この町出身らしい。休暇で、実家に帰るんだとか。
その人が言うにはこの町はメッティーから100マイル程離れてる（とか言われても1マイルが何キロなんだかサッパリわからないんだが）小さな町で、両替所はモチロン、外国人を泊めれる宿も１軒も無いらしい。
「でも安心しろ。地元の人が泊まれる宿が何軒かある。私はこの町出身だ、ちゃーんと話しをつけてやろう！」
そーかー。お言葉に甘えちゃおうかな。
・・・１軒目、断られる。２軒目、も、断られる。３軒目(これが最後)、かなりねばって宿の人も同情してくれたんだが、やっぱりダメだった。宿の人も泊めたいのはやまやまなんだが、もし外国人を泊めたのがお上にバレルと、後でエライ目に合わされてしまうらしい。それじゃあしょーがないよなー。地元の人に迷惑かける訳にはいかないものな。
お世話してくれたオジサンが憤慨して「じゃーオレの家に泊まれ！」と言い出したんだが、それは絶対ダメだとこっちから断った。ホテルでさえダメなのに一般人が家に泊めたのがばれたらドーなるのか、それは絶対ダメだ。気持ちだけありがたく頂くことにした。
野宿は無理なので駅のホームに泊まろうとしたら、その英語の先生が「ヨシ！オレも一緒に駅で寝る！」とか言い出した。おいおいおい、アンタはちゃんと家があるだろーが、そこまで付きあわなくてもいいよ。
「ヤダ！一緒に寝るんだ！」
あんたは駄々っ子か？いーよいーよ、ホントにありがとね。あ、だからいいってばー。あーー来るんじゃない！家に帰りなさいってばー。あんたせっかくの休みなんだろ、家族も待ってるんだろー。
なんて気のいいオジサンなんだろう。きっと変な町に迷って来た頼りない日本人が心配でしょうがないんだろうな。
そしてこのオジサン、駅に一緒に泊まるのを断念した代わりに駅長さんにカケ合って私が問題なく駅で寝れるようにちゃーんと話しをつけてくれた。そればかりか、翌朝のヤンゴン行きの電車(バゴーを通る)に地元価格で乗れるように交渉してくれたのだ！これは嬉しい！！
ミャンマーじゃあ色んな物に外国人料金があるのだが、電車もその一つなのだ。地元の人は安い料金の車両に乗れるのだが、外国人は強制的にアッパークラス(要はグリーン車だな)に乗せられてしまうのだ。本当は電車にも乗りたかったのだが、あまりにも高いのであきらめてたんだ。それが最後に乗れることになった。一番安い車両なら問題なく払えるぞ。なんか、スゴイ嬉しいぞ。
オジサンありがとう！本当にありがとね。ちゃんと家に帰ってね、家族の人にもよろしく。ホントーにありがとう。
さて、オジサンのおかげで快適な場所で寝れることになった。駅員の控室のようなところに、ソファーがあってそこで寝かせてもらえる。ゆったりとしたソファーに横になって安眠・・・しようと思ったら安眠できないのだ。部屋の中で当然ながら冷房もなくて暑いのだ。しかも、電気は消せないもんだから、蚊が集まる集まる。暑いわカユイわ寝苦しいわで、結局ホームで寝ることにした。広々として適度に風が吹いてるから涼しくて蚊もあまり寄ってこない。
でもね。ホームは人でイッパイなんだ。私以外にもホームで寝てる人が山ほどいる。寝やすい場所はすでに他の人で埋まっていた。ところが、１つだけ特等席が空いていたんだ。なんかホームの真ん中あたりに大きい台があるんだが、ちょうどいいベットのような大きさの台が。何でみなさんここに寝ないんだろう。なんかあるのかな？まーいいや、ここで寝かせてもらおう。チェーンでリュックを体につないでそれを枕にして、おーーちょうどいいじゃないか。今度こそ安眠できるぞ。
しかし今日は色々あったなー。メッティーに泊まった方が良かったのか、ここまで来た方が良かったのか。でも、やっぱり来た方が良かったんだろうな。
横になったとたん、ああっとゆう間に眠ってしまった。
