朝、ボーイのモーニングコールで目が覚めた。だれがそんなこと頼んだ！まだ７時じゃないか。「朝飯できたから持って行く」ってさ。トーストとチャイ（あまーいミルクティ。インドの定番）で１００ルピー。

「た、高い！なんでだなんでだ！安くしろっ！」

　ゴネたら５０ルピーになった。なんなんだ、昨日の宿代はさんざ粘ったのにビタ一文まけなかったくせに。まぁいいや。さっ、朝飯食ったらとっとと駅に行こう。

　ロビーに下りてったら、昨日のオフィスのアンちゃんがいた。

「グッモーニン。さっ、オフィスに行こう！」

　ほんとに来てたよぉ。ニッコニコ笑ってるよぉ。ちょっとは条件が良くなったんだろうか？ねんのため行ってみることにした。

「アーグラまでのスペシャルバス。アーグラ観光とホテル。それにバラナシ行きのキップ。ぜーんぶセットで、８５０ドルでどうだ！」

　ぜんぜん変わんねえじゃねえか。やっぱりダメだ。私があまかった。早々にオフィスを出て駅に向かうことにした。

　昨日ガイドブックを読み返してみたら、本当に日曜日は予約センターが休みらしい。でも、駅の近くのなんとかと言う所ではキップを扱っているらしい。まぁ、駅に行けば旅行会社も何件かあるだろう。そこらの人に駅の道を聞いて徒歩で行くことにした。

　歩き出してすぐ、ほんとにすぐにオートリキシャ（三輪のバイクタクシー）のアンちゃんが声をかけてきた。

「駅まで行くのかぁ。１０ルピーでどうだぁ」

「ノー！」

　無視して歩き続けてもしつこく寄ってきた。

「５ルピーでいいよぉ」

　無視！

「じゃぁ２ルピーならどうだ！」

「！」

　に、２ルピー？本当か？

「リアリィ？」

「あったりまえだ！ノープロブレムだぜぇ」

　結局、乗ることにした。２ルピーならいいや。

「電車に乗ってどこに行くんだい？」

　インド人はほんとによくしゃべりかけてくる。

「駅の旅行会社でバラナシ行きのキップを買うんだ」

「そ、そりゃぁビッグプロブレムだ！駅前の旅行会社はみいんなボッタクリだぜぇ！よしっ！俺がナイスなツーリストオフィスに連れてってやろう。そこは日本語のしゃべれる男がいて安心だぜぇ」

　どっかで聞いたようなセリフだが「日本語のしゃべれる男」とゆうのが気になって連れて行ってもらうことにした（こりないなぁ俺も）。

　・・・これは後日、日本の旅行者から聞いた話しだが、ニューデリー駅前に並んでる旅行会社は（ほんとにズラっと並んでる）そろいもそろって、みんなインチキ会社らしい。そこに行ってたら、もっとひどい目にあっていたことだろう。

　オフィスの前まで行くと、・・・まだ開店前だった。

「オー、仕方ないなあ。じゃあ時間つぶしにいい所に連れてってやろう」

　もう、どうにでもなれだ、どんどん連れてってもらう。

　そこは運ちゃんのお気に入りのモスク（寺院？）のような所で。モスクと公園が一緒になっている。

　運ちゃんは信仰心が強いらしく、けっこう厳粛にお祈りしている。私もオデコに赤丸を付けてもらってお祈りした（ちゃんと旅行が出来ますように）。

　なかなか落ち着けるところで家族づれもけっこう来ていた。

「さあ、じゃあ次に行こう」

　次？

　次はみやげ物屋さんだった（おいおいおい。なんにも買わないってば）。一通りひやかしてから再度オフィスに向かった。

　けっこう町の外れにあるオフィスで、確かに日本語のしゃべれるアンちゃんがいた。シーク教らしく、頭のターバンが似合ってる（けっこう二枚目だ）。

　アンちゃんいわく、本当にインドは今旅行シーズンで列車も宿も混んでいるらしい。とりあえず今夜の夜行列車が予約出来るか問い合わせてもらった。

「今夜の列車は無理だが、明日ならなんとか取れる」（但し、バラナシより１０キロぐらい離れた駅に止まる）

　それで十分だ。さっそく予約してもらった。手数料込で２５０ルピー。後で聞いたら、けっこう良心的な値段らしい。

「しかし、デリーに２泊しても仕方ないだろう。どうだ、アーグラ，ジャイプールの観光ツアーとバラナシまでのキップを付けて３００ドルで手を打たないか？」

　・・・丁重にお断り致しました。

　さあ、運ちゃんにお金を払って次は宿探しだ！お金を払おうとしたら。

「デリーにもう一泊するんだろう。いいホテルを紹介するぜ」

　うーん。抜け目のない運ちゃんだ。

　結局連れて行ってもらうことにした。せっかくだからわがまま言おう。「安くて綺麗で静かなところ」

「そんな所無いってばぁ」

　かなりの宿を回ってもらったが、定番（？）の宿は本当に満員が多い。結局、３００ルピーの宿にした。もうお昼をとうにまわっている。よし！「昼飯おごってやろう」

　・・・その一言がいけなかったかもしれない。

「店じゃぁもったいない。俺の家に招待しよう。いいか？」

「もちろん！」

「お前は何が好きだ？」

「ビール！！」

「・・・よし、まかせろ！」

　途中で運ちゃんが、ビールを３本仕入れてきた。

「隠せ隠せ！」素早く布に包んで座席の後ろに隠してしまった。（麻薬じゃないんだから）しかし、ビールがぜんぜん冷えてないのが気になる。ぬるいビールほどまずい物はないんだが。

　かなり遠くまでバイクを走らせて着いた所は、彼の家じゃなくて、“彼の奥さんの妹の旦那の家”だった。